社会時評平成22年5月の記事(執筆:西山west)




5月25日

韓国海軍の哨戒艦「天安」が北朝鮮の魚雷によって撃沈されたという公式な発表がありました。軍の艦艇を攻撃、撃沈するのは戦争行為?と言えましょう。(戦争行為の定義はありませんので、使いがたい言葉ですが、軍による他国への武力行使行為をいうことにします)

ベトナム戦争の発端がいわゆるトンキン湾事件で始まったことは周知のことですが、これも越海軍の発砲によって始まったとされ、米海軍の応戦により本格的な戦争となりました。このように他国軍に対する攻撃はただちに本格的な戦争に至ることは歴史上枚挙に暇がありません。むしろ、今回のように、直ちに戦闘が起こらなかった事例の方が稀と言えましょう。

事件後の韓国の与論を見ますとかなり強硬論が出ていました。不条理な攻撃で海軍の船が沈められ、46人もの兵隊が死んだのです。怒らない方がおかしいと言えましょう。しかし、直ちに戦闘行動をとることにはなりませんでした。何故戦争にならなかったのか、それは韓国に対し何らかの抑制が働いたに相違ありません。その抑制を与えた力こそが抑止力と言えましょう。

韓国大統領も、「今後はわれわれの領海、領空、領土を武力侵犯するならば、直ちに自衛権を発動する」と言い、武力行使の可能性に触れましたが、これは北が再度の行為があったらと言う仮定のことを言っています。即ち、予期しない事件でも起きない限り武力による報復は控えるという意思表明です。

韓国が報復のための武力行使を控えた理由は何か、軍事的要因、国際関係、経済、武力行使がその後の東アジア情勢に及ぼす影響等々、多方面の分析が必要であり、単純に殴られたら殴り返せと言う訳には行きません。

北朝鮮側から言えば、このような事件を起こしても、韓国が武力による報復に走ることはない、との判断があったに違いありません。後ろには友邦中国がおり、自分は核を持っている軍事大国なのだから、韓国が出来ることは知れていると高をくくっていたのです。つまり、北朝鮮は韓国の武力行使に対し強い抑止力を持っていると考えていることになります。(この認識が正しいかどうかは、また別のことです。) 一方、北朝鮮が行う挑発が韓国の我慢の限界を超えれば、抑止力は働かなくなることにも、十分注意しながらやっているのでしょう。

普天間の海兵隊の抑止力はどうなのか、という議論が行われています。中には海兵隊は緊急時の米人の救出部隊だから抑止力にはならない、と主張する人もいるのには驚かされますが、この程度の論を吐く人が有識者としてマスコミに登場して来るのですから、日本の防衛論議は程度が知れています。

抑止力は、多くの要素が組み合わされて構成されるもの、海兵隊一つ取り上げて議論しても無駄なことです。海兵隊は米軍の中で重要な機能を担う部隊ですから、現在の米軍は海兵隊抜きでは語れません。まして、沖縄という戦略的に重要な位置に存在する海兵隊の任務は、我が国の安全保障にとって掛け替えのないものと言えましょう。


5月15日

今朝の朝日は3月末に起きた韓国哨戒艦の沈没をめぐり、「国際軍民合同調査団が「魚雷による沈没」との結論を出し、20日に最終報告書を発表する。」と報じました。この調査団は客観性を担保するため、米英など第3国が加わって構成されていますので、朝日の報道が真実ならば半島の南北関係は危険な状況に陥る可能性があります。

韓国の哨戒艦「天安」が沈没した北方限界線(NLL)の海域では、これまでも交戦を含む数々の事件が起きていますが、昨年秋から一連の状況がみられています。即ち、11月13日に、北朝鮮は海上の軍事境界線に当たる北方限界線(NLL)の無効を主張し、「独自に定めた海上軍事境界線を守るため、「直ちに無慈悲な軍事的措置を講じる」と表明しました。

 引き続き12月21日には、北鮮の海軍司令部報道官は、「黄海の「海上軍事境界線」周辺海域を、軍部隊が平時でも射撃する区域に設定するとした声明を一方的に出しています。

このような状況下で事件が起きたので、北朝鮮が全く前触れなしに哨戒艦を攻撃したということではなさそうですし、以前この海域で行われた海戦で手痛い敗北を喫した北海軍の報復行為であったのかもしれません。

それにしても、何故やったのか、この謎が解けなければ北が犯人だとは断定できません。現在、北が韓国に対し一連の強硬策に出ているのは事実ですが、他国の海軍艦艇を魚雷攻撃するというのは、尋常のことではありません。

注意しなければならない状況として、NLLに近い韓国領海には多数の中国漁船が不法に操業している実態があります。韓国側が取り締まりに入ると、中国漁船は北朝鮮側に避難してしまうのが実態なのだそうです。 

金正日訪中時に、中国はこの事件の犯人について何らかの情報を得ていたのか、北の犯行と知っていたのに、訪中を受け入れたのか、疑問は尽きませんが、原因が魚雷だったとするなら中国の対応はやっぱりそうだったのか、と思います。即ち、知らん顔をした方が良い時にはそうするのです。

北の犯行だとする見方を韓国政府が出してくるなら、一気に危機が深まり、六カ国協議再開どころではなくなります。それが北の狙いとするなら、核兵器の開発を急ぐ北の時間稼ぎの意図通りということになります。


5月5日

鳩山首相の沖縄訪問が行われましたが、沖縄の人々の基地移設反対の勢いを煽っただけに終りました。首相の言葉は「最低でも県外」と言う公約に期待を抱いていた島民たちの願いを拒絶するものでしたから、島民の怒りは首相の慣用句を借りれば[当然のこと]でした。

 今後の展開はどうなるのか、約束の5月末までの移設先決定は殆んど無理の状況となり、その先の打開策は見えません。首相の責任を問うのは当然のことではありますが、例え辞任に追い込んだとしても、普天間問題が解決する訳ではありません。
 
5日の産経は社説で現行案しかないと主張していますが、ここまで状況を悪化させてしまうと、今更、辺野古移転の現行案に戻ることも極めて困難でしょう。畢竟、鳩山政権はすべての移設案を潰してしまったことになります。残るは普天間の継続使用ですが、これもここまで基地撤去運動を盛り上げた結果、基地の維持は極めて困難となる公算が大きいと見なければなりません。米軍はリスクの大きい、かつ居心地の悪い基地を使い続けることを断念する可能性がありますし、この状況が嘉手納など他の基地に波及する恐れは皆無ではありません。

 首相に勉強不足だったと反省されても、今となってはそれではもう一度勉強し直して下さいと言う訳には行きません。首相の政治手法が普天間の移設だけでなく、既設基地の維持まで困難な時代をもたらしてしまったのです。即ち、日本の安全保障の一角を崩してしまったと言えましょう。 

鳩山首相が退陣し、次期首相が誕生したとしてもこの状況は変えるのは極めて難しい状況になりました。母親から巨額の資金援助を得ていながら、これを知らなかった首相のことですから、知らない筈のない海兵隊の役割も知らなかったのでしょう。根拠のないマニフェストを信じ、無知の首相を選んだ責任は国民にありますが、国民を騙すマニフェストで国を危機に陥れた政府与党はどう責任をとってくれるのでしょうか。