平成20年10月中旬の記事




10月20日
今朝の産経は「社説検証」欄で北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除を取り上げ、日本にとって指定解除がどのような影響があるかという視点から、各社の社説を検証しています。それによれば、各紙ともに指定解除に賛意を示しているものはありませんが、日本がこれからどう対処して行くかについては意見が分かれているとしています。

この指定解除については、日本に対する影響も大切ですが、米朝交渉でどちらが外交的勝利を得たのかということの方がより重要なことと思えます。これについては、北朝鮮の瀬戸際外交に米国がやられた、米国は譲歩を強いられた、即ち北朝鮮が勝ったという見方が主流になっていると思われます。

防衛省OBで背広組の太田述正氏がブログを出しています。その中で、太田氏は米国が勝ったのだという意見を開陳しています。それによれば、北朝鮮に対する金融、人事交流、輸出入など多くの項目にわたり制裁乃至制約を課しており、テロ支援国家指定を解除しても、これらの項目が生きている限りテロ支援国家指定解除は名目的なものに止まる、北朝鮮は名分だけ受け取ったのだという意見です。

米タイム誌も、「北朝鮮との交渉でブッシュが勝利)」という記事を掲載しています。米国内で凍結されている北朝鮮資産の凍結解除も行われていないところから、実質的に北朝鮮が得たものは殆どない、という趣旨です。

このように立場々々で意見が異なるのは当然ですし、米国の雑誌が米国贔屓の記事を書いても、これは当たり前のことです。しかし、米朝交渉で北朝鮮の核保有を阻止するという六カ国協議の目的が達成されたと見る事はできません。この点を見ないで、交渉の勝ち負けは判断できない筈です。


10月19日
秋も深まり、山々の紅葉は盛りを迎えています。先週始め、群馬県側から金精峠を越え日光の紅葉を見物してきました。北関東では標高1200m〜1500mが今見頃です。今年は冷え込みが適当のようで、美しい紅葉がみられます。

温暖化のPRか、朝日は昨日の夕刊で北アルプス涸沢の雪渓の様子を40年前と比較した写真を載せ、今朝は欧州アルプスで氷河に日除けのカバーを掛けて溶けるのを防いでいる様子を掲載しています。

報道によれば、スイス南東部のディアボレッツァ氷河で、登山鉄道などを運営する会社が氷河全体の3分の1に当たる約8千平米を夏の間、フェルト地のシートで覆っているのだそうです。(この朝日の報道には疑問があります。100m×80mで8千平米になります。氷河の1/3がこんなに狭い筈はありません。)

報道の正確性はともかく、シートを掛けてまで氷河が溶けるのを防がなければならない状況は深刻です。私が持っている写真でも、15年前にグリンデルワルトから見られるヴェッターホルンの氷河の末端を一昨年のものと比べると、びっくりするほど氷河が後退しています。

このヴェッターホルン氷河にはシートは掛けられていません。傾斜が急でクレバスが発達し、人が入れないからですし、広大な氷河の溶融を人為的に防ぐことなどできる筈もありません。CO2の増加が氷河後退の原因なのか、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、「氷河の縮小は、19世紀中頃から世界の多くの場所で明らかであり広がっている」と1996年に見解を述べており、前々世紀から氷河後退が観察されています。

自然の脈動が人為的なものによってどの程度変えられているのか、結論が得られているとは言えません。疑わしきは罰せずではなく、疑わしい原因は何はともあれ取り除くというのが、炭素排出量減少策です。

酷暑に悩まされた今年も着実に秋が来て錦シュウを楽しめます。この自然をどう守るのか、その策は適切なのか、排出量削減ばかりが叫ばれますが、何故そうなのかがしっかり説明されているとは思えません。


10月18日
昨日、国連総会で日本の国連非常任理事国当選が決まりました。先ずはおめでとうと申し上げます。選挙の相手国イランは核開発を進め、西側諸国の懸念を呼んでいる国でしたから、よもや負けるとは思えませんでした。しかし、以前の常任理事国問題でアフリカ諸国の支持を得られず痛い敗北を喫した日本でしたから、国際社会がよそを向かなかったことに安堵した思いです。

国会で新テロ法審議が始まり、ソマリア沖における海賊対策の議論がなされました。民主党の長島議員は「日本関係船舶が実際に海賊に襲われる事例が頻発する場合、当該海域において海上警備行動を発令すること必ずしも排除されているものではない」と主張しました。麻生首相もこれに賛同の意を示し、これから実現に向けて検討されることになりそうです。

海上自衛隊は長期にわたる海外派遣を前提した編成にはなっていない筈ですから、現在の給油活動でも多大な負担が掛かっています。海自は様々な不祥事が明らかにされ、マスコミにも袋叩きにあっていますが、命ぜられる任務は重く、これを回避することはできません。それに加えて、海上警備行動が発令され、艦船や航空機がインド洋に派遣されることになれば、益々負担は増えることになります。

今月に入り、インド洋派遣の給油部隊指揮官が体調不良で交代する状況が生じました。これも過酷な環境と任務が然らしむるところ、海自の健康を回復させる責任の一端は政治にあります。海外で長期にわたる勤務を支える様々な分野における体制整備が必要です。


10月17日
タイ・カンボジア国境にあるプレアビヒア遺跡の領有権を巡り、両国の軍が銃火を交え、死傷者が出ています。外から見ると、国境に世界遺産に指定された遺跡があるため紛争が起こったと見がちですが、実情は単純なものではありません。

この遺跡で群はアンコールワットを建造したクメール王朝(9世紀から15世紀)が建設したものとされています。クメール王朝は現在のカンボジアの元とも言える国で、現在のカンボジア、タイ、ベトナム、ラオス一帯を領域とした一大王国でしたから、アンコールワットのような壮麗な建造物を作ることができたのです。

カンボジア西部にあるアンコールワットがはかつてのクメール王朝の首都、ここからタイ国境までは100km余しかありません。周辺のジャングルの中には遺跡が点在し、クメール王朝の往時の隆盛が偲ばれます。クメールの子孫であることをカンボジア国民は誇りとし、この地域一帯でかつての支配民族としての矜持を心の底に持ち続けています。しかしながら、今はベトナムやタイの人達からは一段低い民族と見られているのが実情です。

今回の紛争の原因に、カンボジアのナショナリズムの高揚が一因という解説がありますが、周辺国から低く見られることに対する平素の鬱憤が露呈・暴発する素地は充分にありました。

一方の当事者タイは、このところ続いている政争と国内混乱で政府は窮地に立たされています。このため国境紛争など、対外的問題で弱みは見せられない状況です。

ごく最近まで、ブレアビヒア遺跡付近国境の警備に当たっているタイ、カンボジア両国の兵士たちは和気あいあいと交歓していたのですが、政治の緊張が銃火を交えることになってしまいました。


10月16日
これまで金融大国の道を順調に歩んできた小国アイスランドが、今回の金融危機のあおりを受け、破綻寸前となってロシアから資金援助を受けるとか、世の中は変わったものです。アイスランドの金融危機の状況は深刻の模様ですが、かつてのこの国はNATOの重要な一員、旧ソ連海空軍の北大西洋への進出を妨げるための地理的要所でした。

レイキャビクの基地には米第85航空群のF-15戦闘機やKC-135空中給油機などが駐留し、米海軍もP-3C対潜哨戒機の配備して北大西洋のパトロールを行っていましたが、これらの部隊は一昨年撤収を完了し、国軍を持たないこの国には、今は軍は存在していていません。

NATOと関係で残されたのは1987年から運用が開始されているレーダー基地4ヶ所で、領空の監視によって防衛協力を継続しています。

この国へロシアが金融支援を手段として手を突っ込んできたのです。ロシアも金融危機のあおりを受けて、金繰りに大変な時ですが、グルジア紛争で南オセチアとアブハジアを独立させるという果実を得た代償に、NATO諸国との関係を悪化させています。ここでまたアイスランドに手を出して来たのは相当な覚悟の元でのことでしょう。メドベージェフ政権の姿勢の一端がまたも見えました。

欧州諸国もアイスランドに資金援助を行う余裕が今はありません。昔から金の切れ目が縁の切れ目と言います。望まない縁も、金で結ばされることになるとは、かつては珍しくなかった身売りを思い起こさせます。


10月15日
海上自衛隊「特別警備隊」養成課程の隊員が訓練中死亡したことに内外から批判が高まり、新聞も朝日と産経が社説で徹底した調査と再発防止を求めています。報道されている内容から判断すれば、状況は海自にとって良くありません。上司が認めて転属間際に過酷な訓練を行うというのは、状況としてあってはならないことに思えます。

北朝鮮のテロ支援国家指定解除で、わが国のブッシュ政権に対する信用は地に落ちました。と同時に日本の外交力は、北朝鮮の核の力に遥かに及ばないことが実証されたと言えましょう。北朝鮮が核武装したなら、その対抗措置として日本も核武装せざるを得ないと言う覚悟を見せなければ、米国を説得することは出来なかったと思います。

米朝間で合意された検証のやり方では、北朝鮮の核武装の進展を防ぐことは出来そうもありません。既に米国は北朝鮮の核武装を容認したと考えなければならないでしょう。これからは、日本は自力で北朝鮮の核と対抗して行く覚悟を持たなければなりません。



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