19年3月初旬の記事





3月10日
 朝日と産経を読む限り慰安婦問題が日米で過熱しているように感じられますが、真相はどうなのでしょうか。読売、毎日の両紙は、電子版を見る限りこれに関する特別な報道はなく、安倍首相の河野談話を継承してゆくという談話が載っている程度です。

 朝日は「米の知日派も憂慮」との見出しで、キャンベル元国防次官補代理、グリーン前国家安保会議アジア部長の発言を、またマスコミではニューヨークタイムス、ロス・タイムスの論説がこの問題を取り上げていると伝えています。更に朝日の社説では「国家の品格が問われる」という表題で、弁明するよりも人権問題ととらえ、自らの歴史に向き合う、それこそが品格ある国家の姿ではないか、と主張しています。

 産経は、社説で「偽史の放置は禍根を残す」として誤解に基づく米議会の決議案は欧米世論を味方につけようとする中国の戦略であり、一部の米紙はその術策に嵌まったとしています。またこの問題に関して産経の主張を裏付ける記事を数本載せています。これに対し、朝日は社説の中で、一部メディアの中に河野談話修正の動きがあることに便乗しようとしているとして非難しているのは、暗に産経を指しているのでしょう。読売、毎日のこの問題をほとんど無視する態度を見ると、朝日、産経の過熱とも言える報道合戦がことの真相を伝えているのか、疑問を感じます。

 この問題に関する韓国紙の報道を見ますと、朝鮮日報が米 CNN による世論調査について報じ、世論が圧倒的に日本は謝罪する必要はないという結果が出ているとしていますが、これまでの韓国紙に見られる歴史問題に対する過剰とも言える報道姿勢は見られません。

 中国の人民日報電子版には、外交部報道官が定例会見で「慰安婦」問題について質問を受け、「日本が勇気を出し、この問題を適切かつ正しく処理することを望む」と表明したと伝える記事一本しかありません。

 これらの報道を総合して考えると、状況不明としか言えません。一部の象を撫でるような見方に踊らされることはないでしょう。しかし、騒ぎ過ぎると寝た子を起こすことになりかねません。朝日・産経両紙の自制を望みたいと思います。



3月9日
 6カ国協議に基づく日朝・米朝協議が並行して行われ、米朝は進展、日朝は物別れと対照的な進行になりました。日朝協議がこのような結果になったのは、北朝鮮側のシナリオどおりという見方が大方ですが、北の必死な状況も垣間見えるように思います。

 北に核の他に何があるのか、巨大な軍こそ持っていますが、これは燃料不足などで半身不随と言える状況、軍を支える経済は殆ど無力です。過酷な生活環境のためか、平均寿命は50歳に満たないのです。

 国家存亡の窮状にある北朝鮮としては、米国から安全保障、日本からは経済援助を獲得することこそが狙い、この双方を得なければ北朝鮮はすべての核兵器および既存の核計画を放棄するという代償が得られないことになります。拉致問題で強硬姿勢を保つ日本に対し北朝鮮は何が出来るか、日米間を離間させて日本をできるだけ孤立させ、譲歩させることしかないと言えましょう。このための日本に対する強硬姿勢です。

 けれども、日本を全く蚊帳の外に置くことはできません。日朝協議の終わり際に、北の宋大使は日本が経済制裁を解除すれば拉致問題に再調査に応じても良いと述べたのは本音の一端を見せたのでしょう。しかしその再調査するという言葉は信用できません。今までも調査という言葉で結果をだして来るどころか、偽物の遺骨を持ち出したのです。

 米国が拉致問題で軟化するのではないかという懸念が言われます。産経の社説でもそれを言っていますが、北の目的は米国に対しては安全保障しかなく、米国も経済援助をする気はありません。その後に残るのは経済です。日本を無視し続ければ、報酬を得られなくなるのは北朝鮮です。



3月8日
 ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究所(SAIS)の中国問題研究員、ジェームズ・マン氏が「中国への夢想」という本を出版したと産経古森記者が報じています。同書は、これからの中国には3つのシナリオがあるが、中国の共産党独裁が今後50年は続くというのが一番可能性が高いと予想しているとのことです。

 他の2つのうちの1つは、経済の開放や自由化が進めば、共産党独裁の政治体制も変わることが不可避であり、中国の経済自由化を早めれば、やがて必ずそれが政治に影響し、民主化が始まるというもの、もう1つは、中国の貧富の差や社会不安の増大など内部の諸問題のために、やがては経済的崩壊や共産党体制の崩壊など激変が起きる、という予測だそうです。

 共産党政権が成立して間もなく60年になろうとしています。この間の共産党の柔軟な政権運営はまさに刮目して見なければなりません。共産党の支配は国民党との内戦、朝鮮戦争、中ソ対立、周辺国との国境紛争、冷戦終結などの国際情勢の激変の中、激烈な路線闘争を経ながらも大国化の道を歩み、内外に多くの問題を抱えながらも経済は発展し、かつ国際的影響力を拡大させ、結果的に国民に自信を与えているように思えます。

 しかし、マン氏の描いた中に見当たらない1つのシナリオがあると思います。それは、軍の力が強まり、独走的な路線を歩み始めることです。既にその徴候は現れており、一般予算の伸びを大幅に上回る軍事予算の伸びと共に、挑発的な軍事活動が始まっています。これこそが周辺国にとって最悪のシナリオです。



3月5日
 中国の今年の国防費の伸びが 17.8%だと全人代報道官が公表しました。この数字にはびっくり仰天、口あんぐり、何とも言いようがありません。そしてその額は日本の防衛費を越えたとのことですし、この伸び率が続けば4年後には公表レベルで国防費は倍増することになります。

 更に驚いたのが、その説明です。報道官は中国の国防費は05年時点で米国の約6%、日本の 68%だと釈明していますが、何故05年の時点での比較なのか、米国も日本も07年の国防費は明らかになっているのです。今の日本の防衛費に0.82を2回掛け算すれば 68%、即ち現在は公表レベルの額で日本と同じだと言っているのと同じ事ですが、これを敢えて言わぬところが中国らしいと言えましょう。

 中国の国防費は公表された額の2〜3倍と言われていますから、既に日本がとても太刀打ちできない金額を国防に注ぎ込んでいるのです。報道官は「中国は平和発展の道を歩み、いかなる国家の脅威にもならない」と強調しましたが、こんな空々しい説明を誰が信ずるのでしょうか。

 衛星破壊の実験についても同様なことを言い、何らの具体的説明がありませんでした。このような態度は今に始まったことではなく、事あるごとにしれっとして中国は平和志向だと言います。ということは、既に誰も中国の言う事をまともに信じようとは思っていませんし、中国自身も信じて貰えるとは思っていないでしょう。

 相手は今や軍事のみならず経済も大国、強いことも言えず、互いの利益を追求すれば中国の横暴とも言える態度を見てみぬふりをしているのが精一杯です。4年後には公表レベルでも日本の倍、真の国防費は5倍を越える軍事大国が隣に存在することになります。これに対抗して防衛費を伸ばすことは不可能なこと、米国との同盟関係を維持強化する位しか思いつきませんが、どうなるのでしょうか。



3月4日
 時事通信社発行の「世界週報」が休刊になるそうです。私の現役時代には、調査関係の部署では官費で購入されていた雑誌で、いわゆる公開情報のジャンルの資料源として多いに活用させて頂きました。また研究者の論文の掲載も多く、今の様なネットによる情報収集など夢想もできなかった時代には貴重な資料源でした。

 休刊になる理由ですが、この記事によればネット社会の下ではこの雑誌の特質であった記録性という面で存在価値が少なくなってしまったとのこと、このため収益性も落ちていたのだそうです。個人読者の拡大を図るため、定期購読者には大幅割引などの策をとっていましたが、時代の趨勢には逆らえません。

 情報に色付けせずそのまま伝達することに特色を持つこの雑誌は、存在価値が感じられるものです。最近勢力を増しているという「諸君」「正論」などの右派と言われる雑誌、読売に買収されて編集方針が親米保守へ変わった「中央公論」、左派の重鎮である「世界」朝日新聞社の「論座」などそれぞれの主張を持つ雑誌はありますが、色のない情報(実際は存在しないのかも知れませんが)を提供するという姿勢は何か受け継ぐメディアがあって欲しいものです。



3月3日
 アフガニスタン情勢が緊迫しています。アフガンの厳しい冬が終われば、勢力を回復したタリバンの軍事活動が活発化するのは必定です。米軍は昨年夏にNATOへアフガンへの駐留権限を委譲し、イラクへ全力投球の態勢を整えましたが、その反作用でNATO軍の荷が重くなりました。英軍はイラクの兵力を削減し、アフガンへ増派を決定しましたが、NATO内では仏独伊などが増派を渋り、兵力不足はかなりの状況にあるようです。

 アフガン内では、特に南部地域でタリバンの活動が活発で、これに対処するNATO軍は米軍と比べて装備に劣るため苦戦を強いられているとのこと、パキスタン外相は昨年11月、NATO諸国の外相らと会談した際「NATOはもうアフガニスタンでは勝てないから、タリバンと和解する協定を結び、アフガニスタンの政府にタリバンも入れて連立政権にした方が良い」と勧めたとの報道もありました。

 NATOや米国は直ちにこれを受け入れることは出来ないでしょうが、旧ソ連がアフガンのゲリラ勢力に手を焼いて撤退に追い込まれたのはまだ記憶に残るところ、外敵の侵入に対するアフガン民衆の抵抗の激しさは歴史が証明しています。特に南部地域では、NATO軍は点と線を確保しているだけ、ここに駐留するNATO軍は ROEで積極的に外に出て戦う戦術をとっていないとのことですから、旧ソ連軍が置かれた状況と同じです。

 一方で中央アジア、トルクメニスタンなどの天然ガス資源について、その搬出経路がどうなるかが注目されています。この資源には、ロシア、中国、欧州、米国などが垂涎で、インド洋へのパイプラインはアフガン経由が見込まれます。このためにはアフガンの安定が絶対に必要なところ、欧米にとって資源と絡んでの長期戦略が危機的状況に陥ることは何としても回避したいところです。



3月2日
 昨日行われた第41回吉川英治文学賞選定会で、宮部みゆきさんの「名もなき毒」が選ばれました。この小説はまだ読んでいないのですが、これまで宮部さんの小説は10編ほど読んでおり、ファンの一人です。

 社会派とも言える宮部さんの小説には、現代社会が持つ様々な現象を取り上げており、例えばネット社会が作り出す交友関係、多重債務者、自己破産、連続女性殺人事件等々私どもがなかなかその深淵を知り得ない社会現象を取り上げ、小説に仕立ててくれますので、私の社会勉強の一つの手段となっています。

 彼女の小説は現代を描いた社会派に止まらず、時代小説にも多くの著作があり、更にはモダン・ホラー、タイムスリップ、サイコ・ミステリーなど多彩ですから、エンターテイナーとしても第一級です。

 著作の一つ、「蒲生邸事件」は2.26事件を題材にしたもの、2.26事件が何であるかも知らない平成の高校生が平河町にある蒲生大将の私邸にタイムスリップするという設定です。2.26事件は昭和11年のことですから私の生まれた年、その時代の風景、民情などが小説から懐かしく思い起こされました。江戸時代から現代に至るまでの様々な社会を描き出す宮部さんの才能に驚嘆するばかりです。



3月1日
 順調に上昇していた株式市場ですが、上海発の暴落で調整局面に入りました。駅頭で週刊誌が株の3月暴落という見出しを出していたを先日見たばかり、先見の明がある人は予見していたようです。今朝の新聞に載っている解説も、いわば後講釈、暴落前に書いてくれれば良いのにと素人は思います。

 多くの解説は中国市場の未熟さを指摘し、これがリスクとなったとしています。これが過熱状態になったらどんなに危険なことか、予測できることでしょうが、リスク管理はなされませんでした。急速に拡大した中国市場のことですから、未熟なところが多々あったのは当然のことです。東京市場でさえ、コンピュータのダウン、注文違いの訂正ができなかったなど、未熟なところが指摘されているのです。

 日本版 NSCの情報部門を充実させるという官房長官談話が今朝の各紙に載っています。正確な情報なしでは判断は出来ません。また正確な情報を得ても、政策がそれに応じたものでなければ駄目です。今回の暴落も週刊誌で予測記事が出たくらいですから、政府は把握し、警報して然るべきだったのではないでしょうか。




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