19年2月中旬の記事





2月20日
 いわゆる従軍慰安婦問題に関し、米下院で対日非難決議案が上程されました。日系のマイク・ホンダ議員が提案者の一人になっていますが、ホンダ議員は米議会で人権問題に関してマイノリティの権利を守るということで活動している人で、これまでの彼の活動の経緯を見ると、日本を非難するという目的よりも、人権保護という目的で慰安婦問題を取り上げている様に感じられます。

 このような動きの原因の一つは、河野談話にあることは確かです。不確かな根拠に基づいての政府見解とも言える官房長官談話が、その後の政府の対外政策の足かせとなっているのは不幸なことと言えましょう。特に、この談話が河野氏自身の思想信条とも言えるものから発していると思われるところがあります。この談話を支持しない人が多いのは頷けることですし、今見直しの機運が起きているのは当然のことと思います。

 河野氏と言えば、外相在任当時に北朝鮮に対し50万トンの米支援を実施した人、当時の外交部会で河野氏は「今回の支援トン数もタイミングも私の責任で決断した。今後の国交正常化交渉も責任を持ってやらせていただきたい」と述べたと現官房長官の塩崎氏が当時の氏のホームページで伝えています。その後の経過は皆さまご存じのとおり、北の反応は何も無く、税金の無駄遣いに終わりました。河野氏は謝罪談話を発表するべきところですが、その後もだんまりを続けています。



2月19日
 12年前、群馬の武尊山で雪崩のため遭難死した故永尾和夫君(防6)の追悼登山を命日の今日、行ってきました。遭難の翌日は猛吹雪、新積雪が60cmにも達し、捜索は困難を極めましたが、追悼のため登った今日は穏やかな好天、積雪も例年の 1/3だと山麓のスキー場の関係者は言っています。

 毎年この命日には武尊山へ登っていますが、遭難した年は積雪が最も多く、気候も厳しかったと思いますから、体感的には温暖化の進み方は加速しているように思います。その一例として、2月にして積雪の状態が既に春になっています。都会に住んでいると、暖かな冬だ程度の感じ方で過ごしてしまいますが、自然の中に入って行くと気候変動が進んでいるのが見えてきます。



2月18日
 新アーミテージ報告が公開されました。前報告が日本の政策遂行に大きな影響力を及ぼし、有事法制などの成立を促したことを思えば、今次の報告もそれなりの影響力を持つと考えた方が良さそうです。前報告が2000年に出され、その後8年が経過しましたが、その間の東アジア情勢の変貌振りは著しいものがあります。この辺りを新レポートは詳しく分析しており、特に中国についての分析は我々としても注目しなければならないでしょう。

 中国の安全保障政策については、ここ数年間にインド、キルギスタン、ロシアとの関係はうまく結ぶことができたが、国内の安定、北朝鮮の内部崩壊が不安定要因となるとしています。かつて同氏はもし北朝鮮の崩壊と共に、「外国が部隊を派遣すれば、中国も派遣するだろう」と語ったことがあります。つまり、中国にとって内政が問題であり、北朝鮮の崩壊があれは、これの内政への影響排除のためにはかなりの軍事的行動も辞さないという見方をしています。

 その一方で、「中国にとって一番重要な国は米国だが、米国にとって一番重要な国は日本です。これが中国人にとってはフラストレーションになるわけです」とも語り、中国の日本に対する行動にの後ろには常に米国の影を意識していると見ています。
 
 今次報告で、日本の防衛費増加を希望しています。氏の持論である日本が憲法改正を行い、持っている力にふさわしい振る舞いをするためには、防衛力の増強が必要と見ているのです。冷戦時代と比べると日本が行動しなければならない分野、例えば領土問題、資源開発などが広がっていることは我々日本人にも認識されるようになってきました。その為には、必要な防衛力の増強を行う事により、東アジアの情勢を日本が主導し、引いては日米関係の一層の強化へ導くことを新アーミテージ報告は期待しているのでしょう。



2月17日
 読売記者に対する防衛秘密漏洩事件が、今朝の新聞各紙で大きく取り上げられています。報道の自由に対する危機感を感ずるという主旨のものが多くなっているのは、マスコミとして当然の話の運びでありましょう。

 一連の報道から見えてきたのは、防衛省首脳が今回の事例については「一罰百戒的な意味」があるという発言をしたことに如実に現れているように思われます。最近の防衛省関係の情報漏洩は、ウィニーなどによるものを含めて、かなり頻繁であり、米側から指摘される事も多いことから、綱紀引き締めを行ったものということです。

 政府や政党の首脳が、知り得た軍事情報を政治的な意味合いで意図的にリークすることは米国でも時々行われていますが、現場レベルでのリークは不適切であることは明らかです。今回は記者が相手ということで、外国諜報機関への漏洩でありませんから、意図的に行われたことではないでしょう。記者への対応での不適切な一言が大事を呼んでしまったのかも知れません。

 情報の保全と国民の知る権利との折衷はどの辺りで折り合うべきか、極めて難しい問題です。そして個々の事例によって判断が異なることかも知れません。そこで登場するのが、昨日の本欄で述べた情報の洗浄です。そのためには、国民が知るべき情報は、資料源が何処にあるかを分からない様なものにして、公表するという作業が欠かせません。

 各紙の論調のなかに、潜水艦の火災というような事件の公表が秘密なのか、というものが散見されます。火災という事実そのものは秘密にすることはないでしょうが、情報の収集手段を秘匿するという面から見れば、明らかにするべき情報ではありません。その辺りが情報開示の難しさですし、テクニックの必要なところです。



2月16日
 秘密情報を読売新聞へ漏らしたとして、一等空佐が事情聴取を受けていることが報道されました。記事によれば、防大24期、ロシア語堪能で駐ウクライナ防衛駐在官の経歴があるそうです。これを見ても情報特技者であることは明らかですから、少々お粗末であったことは否めません。

 漏らした情報が、中国潜水艦の火災に関係する事柄だとのこと、一般の人にはどこが秘密漏洩に当たるのか分かりませんが、分かる人には分かるのがこの種の情報の特性です。この種の情報を使用部署(作戦関係部署)へ通知する場合、情報源が分からない様にするため、情報の洗浄をやる場合があります。これにより、特別な資料源による情報が取り扱う権限を与えられていない作戦幕僚にも、情報を通知することができるようになるからです。

 このことは、軍の外へ情報を意図的にリークする場合、或いは記者会見にも当てはまります。しかし、今回のように潜行中の潜水艦が火災を起こしたと言う様な特殊な情報については、その情報を知ることができる手段は極めて限られているのが実態ですから、資料源(収集手段)を情報洗浄によって隠すことは極めて困難です。

 このようなことは、情報関係者であればよく知っていること、情報本部の課長職にある人がマスコミとの面談で洗浄されていない情報を提供するとは思えません。

 この潜水艦火災について、中国は訓練であったと後に報道しましたが、これも極めてお粗末な話でしょう。訓練のため潜水艦を浮上させて曳航するとは、信じられないことです。



2月15日
 八甲田山で酸ヶ湯温泉が主催するスキーツアーのパーティが雪崩に遭遇し、二人が亡くなる事故が起きました。酸ヶ湯ではこのようなツアーをほぼ連日行っており、同じ八甲田山中にある城ケ倉温泉でも同じようなツアーを行っています。酸ヶ湯のツアーには私も以前に参加したことがありますので、身につまされる思いがします。

 各紙が山岳関係者などの所見を載せており、それぞれ尤もなところがありますが、遭難防止の対策は十分に行わなくてはなりません。その一方で、今回の事故で酸ヶ湯などツアーを主催する人達が萎縮し、ツアーが無くなることがないよう期待します。

 残された遺族にとって、ガイドはツアーの安全を保障するものと考え、万一事故があれば補償するのは当然と思うのかも知れません。そのためか、過去ガイド付きのツアーで遭難事故が発生し、それが裁判になった事例も多いのです。しかし、山岳ツアーはもともとリスクがあるもの、どんな優れたガイドでも100%の安全を保障することは出来るはずがありません。優れたガイド制度を持つ欧州アルプスでも、ガイドが付いていて遭難する事例は結構あるのです。

 山岳ツアーのようなリスクのある行為において、事故を起こした人に対する非難や責任追及が拡大し、遂にはツアーそのものが出来なくなってしまうような風潮は、今の日本では登山だけでなくリスクのあるところに蔓延しているように思えます。

 永年冬の尾瀬スキー登山を主催していた長蔵小屋も、遭難事故こそ起こしていませんが、似たような問題でツアーを行わなくなってしまいました。今回の事故に対し、酸ヶ湯に対する非難・誹謗は多々あるでしょうが、決して負けてツアーをやめることがないよう頑張って頂きたいと思うものです。



2月14日
 六カ国協議が合意に達し、合意文書が公表されました。この協議の当初の目的はただ一つ北朝鮮の核放棄であった筈ですが、総花的な解決策が並べられ、どれ一つとっても果たして実行されるのか疑問点のみ多い印象を受けました。しかし、これが国際政治の実態なのかも知れません。この合意に関する印象を二つだけ書きたいと思います。

 一つは、今回の合意は94年のKEDOのスキームとほぼ同じような構造になっています。それに加えて米朝、日朝などの国交正常化、テロ国家指定解除、金融制裁の緩和などが盛り込まれています。これらが順調に運ばれることは殆どあり得ないことですから、北がこれを理由に核放棄を停滞させ、或いは拒否する可能性は無限にある訳です。

 例えば、日朝国交正常化が順調に行われると考える人は誰一人としていないでょう。まして日本は拉致問題を抱え、他の4ヶ国と跛行的な発進をせざるを得ないのですから、北が付け込む余地は多いにあります。

 二つめは、核を持ったことの強さです。インド、パキスタン、イスラエルが核を持つ経緯をたどりましたが、核拡散防止条約はこれに何らの影響を与える事が出来ませんでした。今回の北朝鮮に対しても同じで、六カ国協議など国際社会が強く抑止に走ったのですが、結果は無残としか言えません。関係国は北が核保有国であると認めるとは言いませんが、現実はこれを認めたのと同じ事になりました。北の立場が強化され、交渉を有利に運んだことは明白です。




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