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演題:「現下の周辺情勢と航空自衛隊の今」

  空幕運用支援・情報部
   部長 上ノ谷 寛 空将補

 平成29年度第2回目の講演会(三木会)を平成29年7月20日(木)グランドヒル市ヶ谷において開催した。
 今回は空幕運用支援・情報部長の上ノ谷寛空将補に「現下の周辺情勢と航空自衛隊の今」という演題でご講演を頂いた。

 講演終了後、外薗会長から本講演に対する謝辞が述べられた。

■わが国周辺の安全保障環境
 今回、皆様の前でお話をさせていただく機会を頂けたことをうれしく思っています。実はこの場でお話をさせて頂くのは2回目で、前回は韓国の防衛駐在官を終えた時期でしたので、平成21年の頃だったと思います。あれから既に8年近くが経ったわけですが、ここ最近の情勢の変化は目まぐるしいものがありました。
 安倍総理大臣が、よく「厳しさを増す安全保障環境」という言葉を使用してお話しされることが多いことは、皆様もご存じのことと思います。近年の安全保障環境はどのように変化し、厳しさを増してきたのでしょうか。
 本日は、まず日本を取り巻く周辺国の情勢について、北朝鮮、中国そしてロシアの順に、この10年間の事象を振り返り、その安全保障環境の変化について整理して考えてみたいと思います。
 どの国も、近年急に動き始めたようにも見えますが、それぞれの国が長期的な計画に基づいて準備を続け、今がまさに各国の動きが顕著に表れている時期とも取れるのかもしれません。
 北朝鮮、中国そしてロシアについて、近年の動きを紹介します。
・北朝鮮
 北朝鮮は、2016年以降30発以上の弾道ミサイルを発射するとともに2度の核実験を重ねております。使用している弾種も多種多様であり、着実にその技術力を向上させているものとみられます。直近では7月4日に北朝鮮西岸の亀城付近から、弾道ミサイル1発が東方向に発射され、我が国のEEZ内の日本海に落下しました。北朝鮮メディアは、同日、特別重大報道として大陸間弾道ミサイル「火星14」の発射試験が成功と報じました。
・中国
 中国の活動が近年活発化していることは、中国機に対する緊急発進回数が増え続けていることからもお分かり頂けるとおりであり、昨年度の航空自衛隊の緊急発進回数は過去最高となりました。
 また、太平洋への進出機会の増加に加え、日本海への進出も見られるようになり、その活動範囲の拡大が続いております。
・ロシア
 ロシアにつきましても本邦周辺における活動は引き続き活発であり、爆撃機による本邦周回飛行に加え、偵察機、哨戒機及び戦闘機等の本邦への接近飛行が継続して行われている状況です。
 このように、北朝鮮、中国そしてロシアは、今まさに活動が活発でありそのような環境の中で、我々は任務を行っている状況にあります。

■空自の任務活動の状況
 対領空侵犯措置任務については、これまでお話ししたとおり、過去最高となった昨年度の緊急発進回数に象徴されるような、周辺国の活発な航空活動に日々適切に対応しています。
 BMD対応についても北朝鮮の情勢で説明しましたとおり、度重なる弾道ミサイル発射に適切に対応すべく態勢を取っています。また、最近は空自基地又は陸自駐屯地への機動展開訓練を実施することにより、その技量向上を図っています。
 国際平和協力活動については、南スーダンにおける活動が終了し、PKOについては一つの区切りを迎えましたが、現在もジブチでの海賊対処行動に関連する航空輸送を実施しております。さらに、この機会をとらえまして、経由する国での防衛交流を図り、国際社会との協力関係の向上をはかっております。
 特別輸送機の運航は、これまでに97カ国、328回の任務運航を実施してきました。平成31年には、B-777への機種更新を予定しております。
 平成28年度は、熊本地震の際の災害派遣をはじめとして、地上及び船上からの急患空輸、空中消火活動等の任務に従事しました。また、今年度は、九州北部豪雨に伴う災害派遣活動を現在も継続中です。(7月20日時点)

■空自の部隊訓練の状況
 レッドフラッグアラスカには、現在も継続して参加しており、国内では設定困難な訓練環境下における実戦的な訓練を実施し、部隊の能力及び米軍との相互運用能力の向上を図っています。
 コープノース・グアムは、近年では日米に加えてオーストラリアの参加により、日米豪の3カ国共同訓練として実施しております。また、戦闘機等の訓練に加え、HA/DRという人道支援・災害救援の共同訓練も実施しております。
 ミクロネシア連邦等における日米豪人道支援・災害救援共同訓練についてご紹介します。本訓練は、米軍において1952年から毎年実施されている「オペレーション・クリスマス・ドロップ」と呼称される訓練で、日豪の訓練参加は昨年が2回目でした。現地政府からも、航空自衛隊の参加は画期的で、大きな意義があるとの評価を頂きました。
 アメリカ太平洋空軍が主催し、グアムで実施されているシルバーフラッグ訓練には、施設部隊を中心に参加しました。本訓練は、施設職域の士官及び下士官を対象とした施設に係る訓練であり、施設の基盤造成、被害復旧に係る講義及び実技訓練等が実施されました。
 国内においては、日米共同対処能力及び戦術技量の向上を図るため、積極的に米海軍及び米空軍との共同訓練を実施しています。また、昨年度は三沢基地に英国空軍を招いて日英共同訓練を実施しました。英国空軍との国内における初の共同訓練を通じて、戦術技量の向上及び相互理解の促進を図りました。

■諸外国との防衛協力・交流
・米国
 日米同盟については、日米防衛協力のための指針、いわゆる新ガイドラインに基づき、日本国内外における共同訓練を行うことにより、米国の強いコミットメントを改めて国内外に明示するとともに、アジア太平洋地域及びグローバルな平和と安全への協力に貢献しております。
 また、再編実施のための日米ロードマップの実現に関しては、総隊司令部の横田移転、ミサイル防衛、訓練移転等を実施することにより、同盟関係に重要な在日米軍のプレゼンス確保に寄与しています。
・英国
 英国との空軍種間における防衛協力・交流は、近年急速に進展しており両空軍種のパイロットが毎年相互に飛行隊を訪問し、体験搭乗を行ったり英国でのエアショーで、航空自衛隊の空中給油・輸送機を地上展示するなどの部隊間交流が活発に行われ、本年は、これに加え英国戦闘機等との親善訓練も実施しました。 これらの交流の着実な進展を背景に、部隊訓練の状況でもご紹介したとおり、今回のタイフーン戦闘機の来日が実現しました。
・豪州
 豪州との関係に関し、協力関係、戦略的パートナーシップを強化するとともに、アジア太平洋地域を含む国際社会の平和と安定の維持・強化のための取組においても幅広い協力を推進することが、国家安全保障戦略に記載されています。これに基づき、航空自衛隊は、ハイレベル交流、実務者交流、部隊間交流から共同対処を前提としたハイエンドな共同訓練を実施しています。今後は、国内における戦闘機による共同訓練の実現に向けて調整中です。
・インド
 インドとの幅広い分野での関係を強化するため、初の実務者交流を実施したことを皮切りに、輸送機部隊の部隊間交流をはじめ、ヘリコプター搭乗員による空自救難隊への研修などインドとの防衛協力・交流を活発に実施しています。また、2016年12月には、空幕長が訪印、2017年2月には空幕副長がインドで実施されたエアショーに参加するなどハイレベル交流も実施しています。
・東南アジア諸国
 近年、東南アジア諸国との交流は、活発に実施されており、ハイレベル交流については、空幕長がタイに訪問するとともに、タイ空軍司令官が来日し、意見交換等をしました。また、空幕長がフィリピンに訪問し、フィリピン空軍司令官との意見交換及びフィリピン空軍シンポジウムに参加し、HA/DRについて講演しました。
 2016年10月には、AFFJ(Air ForceForum in Japan 2016)を東京で行い、東南アジア5カ国(比、尼、緬、星、カンボジア)の空軍参謀長等が参加されました。また、任務運航や国外運航訓練等の寄航を活用し、寄航国空軍との間で部隊間交流も実施しています。
・他の諸国
 東南アジア以外の国においても、地域に大きな影響力を持つロシアとも実務者による交流を継続しております。また、カナダやニュージーランドとも、ハイレベル交流や部隊間交流を実施しております。
・韓国
 最近の交流としては、2015年のソウル・エアショーに空幕長が参加し、韓国空軍参謀総長との会談を実施しました。また、2016年7月には日韓幕僚協議を、2017年2月には後方実務者交流等を実施しました。
・中国
 中国空軍司令員である馬暁天上将から、2016年10月30日から11月2日にかけて実施された、珠海エアショー等に初めて招待を受け、空自から航空開発実験集団司令官が参加しました。中国との将官級の交流は、約7年ぶりであり、中国空軍司令員をはじめ、中国軍高官との意見交換等により、関係改善のための有意義な機会となりました。

■これからの航空自衛隊
 まず初めに、南西域の強化についてです。島嶼部に対する攻撃への対応に係る航空優勢の獲得・維持として、昨年1月31日に、那覇基地の戦闘機部隊を2個飛行隊化し、第9航空団を新編しました。これは、51年ぶりの航空団の新編でありました。さらには、本年7月1日に、南西航空混成団が南西航空方面隊に新編されました。これにより、南西地域における防衛態勢の強化、とりわけ空の守りの一層の万全を期することとなりました。
 続いて、F-35Aの導入です。昨年9月23日に米国テキサス州ダラスにあるロッキード・マーチン社フォートワース工場でF-35A戦闘機のロールアウト式典が挙行されました。さらに、本年6月5日、F-35Aの国内生産初号機のお披露目が行われました。今後のF-35A部隊の新編に向け、着実な準備を進めております。
 次に、C-2の導入です。輸送機については、C-1の用途廃止に伴う減勢を踏まえ、平成23年度より新輸送機C-2の取得を開始しており、現在、8機の予算査定を受けています。
 最後に、女性活躍推進のための取り組みについて紹介します。昨年より、政府主導のもと、航空自衛隊においても、男女共同参画推進などに係る取り組みの一環として、戦闘機などに女性自衛官を登用することについて検討を進め、昨年11月、女性自衛官の戦闘機などへの配置制限を解除することとなりました。早ければ平成30年には、航空自衛隊初の女性戦闘機操縦者が誕生する見込みです。

 本日の私の話は以上で終わります。これからも航空自衛隊の活躍をご期待下さい。話し足りないところが多々あったかと思いますので、お時間がございましたらぜひお気軽に運情部長室までお越しいただければと思います。誠にありがとうございました。