令和3年度第3回目の講演会(三木会)を令和3年10月21日(木)グランドヒル市ヶ谷において開催した。
令和3年9月に空幕防衛課長に上番されたばかりの富川輝1佐に、「令和3年度予算の概要と今後の課題」という演題で講演していただいた。ソーシャルディスタンスを確保した会場設定により、満席の中、つばさ会会員が講演を聴講した。
講演終了後、斎藤会長から本講演に対する謝辞が述べられた。
1 はじめに(自己紹介)
9月30日付で航空幕僚監部防衛課長を拝命しました 富川1佐です。
つばさ会の皆様には、平素からご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。先月9月30日に航空自衛隊QCサークル大会が開催され、3チームがゴールド賞を受賞しました。その際、つばさ会からもゴールドメダルを提供いただき本当にありがとうございました。
航空幕僚長も「つばさ会」のご支援に対し厚く御礼を申し上げておりました。隊員の帰属意識高揚及び士気高揚につながり、この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。
ご依頼を受けた項目が「令和3年度予算」及び「空自の課題と今後の方向性」、そして「空幕改編」でした。皆様には「釈迦に説法」ですが、安全保障環境にも触れさせていただいた後に、お話を進めさせて頂きます。
2 我が国の安全保障環境
(1)全般
既存の秩序をめぐる不確実性が増大し、政治・経済・軍事にわたる国家間の競争が顕在化するとともに、テクノロジーの進化が安全保障に大きく影響し、一国のみでの対応が困難な安全保障上の課題が顕在化しています。また、新型コロナウイルス感染症は、各国の軍事活動等にも様々な影響・制約をもたらしています。
我が国周辺においては、質・量に優れた軍事力を有する国家が集中しており、軍事力のさらなる強化や軍事活動の活発化の傾向が顕著です。また、領土問題や統一問題といった従来からの問題も依然として存在しており、領土や主権、経済権益をめぐり、グレーゾーンの事態が長期化するとともに、明確な兆候のないまま、より重大な事態へと急速に発展していくリスクを内包しています。
米側の言動も注目すべきであり、これまで予想されるよりも早いタイミング(2027年頃)で中国が台湾へ進行するのではないかとアキリーノ・インド太平洋司令官やデービッドソン・前インド太平洋司令官は警告しているほか、米国は、今年の春に「2+2」の共同声明で明確な意図を示しているように、実際に中東から東アジアへ戦力投射をシフトし始めています。
(2)中国
中国の軍事活動は、尖閣諸島周辺のほか、日本海及び西太平洋における活発な活動を常態化させています。また、空母による太平洋上への進出のみならず、最近では偵察/攻撃型無人機を用いて太平洋へ進出するなど、その活動を複雑化させております。
国防費は、ここ30年で40倍以上に増加しています。第4・第5世代戦闘機の機数は、日本の約3.5倍以上です。
(3)北朝鮮
北朝鮮の軍事力は、韓国軍及び在韓米軍に対し、通常戦力では著しく劣勢にありますが、これを補う観点から、核・ミサイル、サイバーなどの能力を強化しています。最近では、発射台付き車両のみならず潜水艦及び鉄道を用いたミサイルの発射や低軌道かつ機動性を有するミサイルを発射するなど、その脅威度は高くなっています。
(4)ロシア
ロシアが開発した「The Checkmate」は、F-35と同様のステルス性を有するなど、ロシアが発表した性能や価格などの内容が本当であれば、注目する必要があります。また、ロシアの軍事活動は、北方領土及び千島列島全体にわたる沿岸防衛システム構築に向けた動きが顕著で、戦闘機やSAMを配備した点も、注視すべき事象です。
3 航空防衛力が直面する課題
(1)宇宙・サイバー・電磁波領域における脅威
近年、周辺国による対衛星兵器の「開発」は、宇宙空間の安定的利用に対する深刻な脅威となっております。サイバー及び電子戦能力の「高度化・複雑化」も大きな課題となっています。
(2)同時・複合的な弾道・巡航ミサイル脅威
弾道ミサイルのみならず、周辺国の巡航ミサイル及び戦闘機等の質的・量的拡大を踏まえると、これらのミサイルによる、いわゆる飽和攻撃に如何に対処するかということは、喫緊の課題であると認識しております。
(3)深刻化する人口減少
将来の航空防衛力は、「深刻化する人口減少」にも直面しています。長期的には、自衛隊員の募集対象者が約12%も減少する予測を踏まえると、これを「静かなる有事」として捉え、今から、人的な航空防衛力の最適化を図っていく必要があると認識しています。
4 航空幕僚監部の改編
これまでの説明であるように、我が国周辺の安全保障環境は厳しさを増しており、航空防衛力を有する航空自衛隊は様々な課題を有しています。 新たな領域・多角的・多層的な安全保障協力の戦略的な推進、情報機能の強化、部隊等の隊務運営の評価等に係る体制の強化、人的基盤の強化に資する募集及び援護機能強化を実現する必要があるということで、今年3月末に航空幕僚監部を改編しました。
5 令和3年度予算の概要
令和3年度予算案は、30大綱の下、中期防の3年度目として、多次元統合防衛力の構築に向け、防衛力整備を着実に実施します。また、人的基盤の強化に優先的に取り組むとともに、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力の獲得・強化、海空領域といった従来の領域における能力の強化、スタンド・オフ防衛能力、総合ミサイル防空能力、機動・展開能力の強化、後方分野も含めた防衛力の持続性・強靭性の強化等を行っていきます。
6 今後の航空自衛隊
(1)領域横断作戦(クロス・ドメイン・オペレーション)の実現
将来の脅威に有効に対処するため、クロス・ドメイン・オペレーションを実現して、相手の能力発揮を防ぐとともに、我の能力を増強し、彼我の能力差を縮減することにより、勝機を見出すことで我が国の防衛を達成します。
(2)宇宙領域への対応
宇宙空間の安定的利用を確保するため、まずは、宇宙空間の状況を常時継続的に監視する体制を構築していきます。そのために、宇宙領域専門部隊の新編し、宇宙状況監視(SSA)システムの整備等を行っていきます。また、「小さく産んで大きく育てる」という考えの下、新編後も、宇宙領域専門部隊を拡充していく予定です。
(3)サイバー領域への対応
空自が利用するサイバー空間の安定性を確保するため、JADGEシステムや基地インフラシステムなどの空自が依存するシステムについて、抜けのない防護体制を構築していきます。
(4)電磁波領域への対応
電磁波領域への対応に関しては、相手のレーダーや通信等を無力化し得る能力の獲得及び強化するため、電子戦能力の高い戦闘機(F-35)の整備、及び、F-15の能力向上を進めるとともに、スタンド・オフ電子戦機等の導入に向けた調査や研究開発を迅速に進めていきます。
(5)将来に向けた空自の最適化
従来領域のスリム化・深化により省人化を実現し、この人的資源を活用して、新たな領域を創造・拡充していくこと、即ち、人的資源の再配置等による組織の全体最適化により、将来の体制を構築していきます。実現のため、人口減少という「静かなる有事」に対し、少人数で多様な任務に対応できる隊員のマルチロール化や、男女共同参画の推進を行います。また、部外力やOB等の活用の拡大、他自衛隊との統合・共同の推進、AIの活用や自動化等による省人化・無人化といった人的戦力の最適化を抜本的に進めていきます。
7 最後に
今後も航空自衛隊は国民の負託に応えるため、進化を続けていきます。また、皆さんのご協力なくしては進化はなし得ません。引き続きご支援、ご協力のほどよろしくお願いします。
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