1 はじめに(自己紹介)
つばさ会の皆様には、平素からご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。
つばさ会の会員に女性が増えていることは承知していましたが、外国人の会員もいらっしゃる等、グローバルな会になっていることに驚いています。
私はこれまで、西、南の地域での勤務が多く、また、3分の1が総隊、3分の1が操縦課程等の学生、残りは空幕、外務省、米国等と幅広く勤務させて頂きました。
2 我が国の周辺国情勢等
(1)中国・ロシア・北朝鮮
中国の軍事活動は、尖閣諸島周辺のほか、日本海及び西太平洋における活発な活動を常態化させています。国防費はここ30年で40倍以上に増加しています。第4・第5世代戦闘機の機数は、日本の約3倍以上となっています。
ロシアの軍事活動は、日本海及びオホーツク海周辺への進出が多く、また極東において、核戦力を含む各種装備の近代化を進めています。特に、北方領土及び千島列島全体にわたる沿岸防衛システム構築に向けた動きが顕著で、2018年8月以降、択捉島にSu-35戦闘機を配備している点は、注視すべき事象です。
北朝鮮は、核及びミサイルの開発を推進しており、ミサイルの発射が繰り返し確認されています。我が国全域を射程に収める弾道ミサイルを多数保有し、実戦配備しています。また、核兵器の小型化・弾頭化を既に実現しているとみられる他、弾道ミサイルに関しては、発射台付き車両(TEL)や潜水艦を用いて、我が国を奇襲的に攻撃できる能力及び複数の弾道ミサイルを同時に発射する能力を保有しています。
(2)対領空侵犯措置
緊急発進回数は、平成20年代初頭の概ね年間200回から300回で推移していた頃と比較すると、現在は年間約1000回ベースで推移しています。中国が年々、活動範囲を拡大させている一方で、ロシアは本邦を周回する飛行を年に数回実施しており、昨年は、爆撃機が1回の飛行で2度も領空を侵犯するという特異な飛行を確認しました。
3 令和3年度概算要求(空自関連)
中期防の3年度目として、多次元統合防衛力の構築に向け、防衛力整備を着実に実施します。また、人的基盤の強化に優先的に取り組むとともに、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域における能力の獲得・強化、海空領域における能力、スタンド・オフ防衛能力、総合ミサイル防空能力、機動・展開能力の強化、後方分野も含めた防衛力の持続性・強靭性の強化等を行っていきます。
4 将来の航空自衛隊(「進化」、「新領域」)
大綱に示された防衛力を達成すべく、空自の将来のあるべき姿を見据え、従来の改革や改編よりも一歩踏み込んだ「航空自衛隊の進化」に航空自衛隊の全隊員が一丸となって取り組んでいるところです。
(1)「進化」
「進化」の方向性として、「新たな領域」、「新たな機能」及び「新たな地域」における能力獲得を推進します。
まず「新たな領域」として、宇宙領域、サイバー領域及び電磁波領域に対応できるよう、防衛力整備等に取り組んでいます。「新たな機能」については、スタンドオフミサイル等が例に挙げられ、また、「新たな地域」においては、太平洋側の態勢強化等に取り組み、能力獲得を推進します。
(2)「深化」
「深化」として、従来領域の能力強化と持続性、強靭性の強化に取り組んでいます。また、最適化として、従来領域のスリム化により省人化を実現し、この人的資源を活用して、将来の体制を構築していきます。多様化する任務への対応と人的戦力の最適化については、隊員のマルチロール化、女性の活躍機会の拡大、部外力の活用、統合・共同及び省人化・無人化の推進等により、総合的に進めていきます。
(3)「真価」
進める「進化」、深める「深化」に加えて、航空自衛隊は、空と宇宙の安全保障を任された組織として、この使命を成し遂げる「真価」を問われています。これまでの伝統を礎として3つのシンカを追求することで、国民の負託に応えて参ります。
5 人材育成
(1)女性の活躍推進
初の女性戦闘機パイロットの訓練は順当に進んでいます。また、航空幕僚監部が女性隊員の活躍を冊子にした「空女」も4作目となりました。
かつて、航空自衛隊が操縦者の門戸を女性に開いた時、飛行教育部隊にいる先輩が、彼女たちは意気込みが違い、とても優秀だと評した一方で、勉強しない男子学生の方がよっぽどたちが悪いと言われたことが印象に残っています。男女ではなく、やる気と努力であることを痛感しました。現在では、男女にかかわらず、適材適所が大切であるということが、当たり前になっています。
(2)リーダーシップ
来週から危機管理産業展が実施されますが、そこでは退職自衛官が、危機管理においてリーダーシップを執ることができる人材・人財であることを紹介するため、航空幕僚監部援護業務課がブースを出展します。自衛官は「指揮」ということを習いますが、最近は「リーダーシップ」ということを多く耳にするように感じます。ある側面においては、自衛隊の指揮は民間のリーダーシップと共通するところが数多くあります。また、リーダーシップは知識と経験に裏打ちされた人格・品格のリーダーシップと、コミュニケーションのような技術としてのリーダーシップに分けられ、特に後者については、勉強して身につけられるものです。 いずれにせよ、リーダーシップについては、常に学ばなければならない責務であると考えます。
(3)ワークライフバランス
ワークとライフは分けて天秤にかけるようなものではなく、それぞれが重なって影響し合っている部分があると思います。 個人的には、仕事(work)、休息(rest)取り組み(engagement)の3つの要素があり、それぞれ重なる部分があると説明しています。特に「仕事」と「取り組み」の重なりは、自らが仕事に、やりがいを見出して積極的に取り組んでいる状態で、上司はそのような環境を部下に提供することが大切です。
(4)育児
ワークライフバランスに関連し、育児への協力の社会的重要性が増してきています。チンパンジーは子供が大きくなるまでの6年間、一匹の育児に付きっ切りとなり、次の子供を産むことをしませんが、人間は毎年、子供を産むことが可能です。 それは母親同士が協力する共同養育を身につけたからです。今の我々にもその遺伝子は受け継がれており、また100年前は大家族で子供を育てていたことを考えると、いわゆるワンオペ育児で母親が産後うつになってしまうことは、当然なのかもしれません。育児は24時間365日の激務であることを理解し、また、そのような育児は創造力や頭の回転の速さ、時間管理能力といった、仕事で求められるスキルにも通じることが認識されることを期待しています。
(5)業務の効率化
若い世代からすれば上司の頭が固い、ベテラン世代からすればトップが改革を訴えても現場が抵抗する等、業務の効率化は、なかなか上手くいかないものですが、やはりそれはトップの仕事と考えます。そもそも若い世代は仕事を覚えることに精一杯で与えられた権限も少ないものです。翻ってベテランは色々な情報から「自分たちでもできるのでは」という「気付き」と様々な経験に裏打ちされた「ひらめき」があります。SONYのウォークマンの商品化は、当時の会長と社長で決めたものでしたが、営業と技術の現場は、いずれも反対だったという逸話があります。業務の効率化や大きな変革は、トップからなされるべきものだと思います。
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