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演題:「大綱・中期防を踏まえた空自の取り組み」

                 空幕防衛課長 1等空佐 尾山 正樹
「全般」
 平成31年度第1回目の講演会(三木会)を平成31年4月18日(木)グランドヒル市ヶ谷において開催した。
 今回は空幕防衛課長の尾山正樹1佐に「大綱・中期防を踏まえた空自の取り組み」という演題でご講演を頂いた。
 講演終了後、外薗会長から本講演に対する謝辞が述べられた。












  今年2回目となる講師紹介

「細部」
 講演会は、講師紹介から開始、講演内容「大綱・中期防を踏まえた空自の取組」は以下のとおり。

1 新たな防衛大綱に基づく航空自衛隊の取り組み
(1) 航空防衛力が直面する課題
 我が国を取り巻く安全保障環境は、25大綱策定時の想定よりも格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増している。また、様々な国が宇宙や電磁波領域での軍事的活動を活発化させている。
【我が国周辺の安全保障環境】
 我が国の周辺には、質・量に優れた軍事力を有する国家が集中し、軍事力の更なる強化や軍事活動の活発化の傾向が顕著となっている。
 中国は、東シナ海を始めとする海空域において、軍事活動を拡大・活発化させている。また、太平洋や日本海においても軍事活動を拡大・活発化させており、特に、太平洋への進出は近年高い頻度で行われ、その経路や部隊構成が多様化している。
 北朝鮮は、近年、前例のない頻度で弾道ミサイルの発射を行い、同時発射能力や奇襲的攻撃能力等を急速に強化してきた。
 ロシアは、核戦力を中心に軍事力の近代化に向けた取組を継続することで軍事態勢の強化を図っており、北方領土を含む極東においても軍事活動を活発化させる傾向にあり、その動向を注視していく必要がある。
【宇宙・サイバー・電磁波領域における脅威】
 近年、周辺国による対衛星兵器の開発等、宇宙の領域における軍事力の進展は、宇宙空間の安定的利用に対する深刻な脅威となっている。
また、サイバー及び電子戦能力の高度化も大きな課題となっており、特に周辺国の一部は、電子戦とコンピュータネットワークの運用を融合して相手の情報システムを攻撃するといった戦略を打ち出している。
これらの脅威は、自衛隊の戦力発揮に不可欠な、戦闘情報ネットワークを妨害する能力があり、それらに対応する能力を保持する必要がある。
【同時・複合的な弾道・巡航ミサイル脅威】
 武力攻撃事態における、弾道・巡航ミサイル等による同時・複合的な攻撃は、重大な脅威である。また、弾道ミサイルのみならず、周辺国の巡航ミサイル及び戦闘機等の質的・量的拡大を踏まえるとこれらのミサイルによる、いわゆる飽和攻撃に如何に対処するかということは、喫緊の課題である。
【深刻化する人口減少】
 我が国においては、人口減少と少子高齢化が経験をしたことのない速度で急速に進展している。
(2) 新たな防衛大綱における目標
 新たな大綱では、@望ましい安全保障環境の創出、A脅威の抑止及びB万が一の場合における脅威への対処という3つの防衛の目標を明確に示している。
また、これを達成するため、@我が国の防衛体制について、全ての領域の能力を融合させる領域横断作戦等を可能とする、真に実効的な防衛力として「多次元統合防衛力」を構築する。
また、Aガイドラインの役割分担の下、引き続き日米同盟を強化していく。
さらに、B自由で開かれたインド太平洋というビジョンを踏まえ、防衛力を活用しながら、多角的・多層的に安全保障協力を推進する。












  熱弁中の講師

2 航空自衛隊の将来体制の方向性
(1) 総合ミサイル防空態勢の構築
 多様化・複雑化する経空脅威に対して、最適な手段による効果的・効率的な対処を行い、被害を局限するため、陸・海・空自の防空アセットについて、ネットワークを介して自動警戒管制システム(JADGE)と連接する。
さらに、一元的な指揮統制のもと高速化したネットワークを通じて情報共有し、各ウェポンに対し目標を迅速かつ自動的に割り当て、最も効果的で効率的な対処が可能となるウェポンで迎撃を行うといった一連のプロセスを最適化して実施する体制を構築する。
(2) 新たな領域(宇宙)への対応
 宇宙空間の状況を常時継続的に監視するとともに、平時から有事までのあらゆる段階において、宇宙利用の優位を確保し得るよう、航空自衛隊において宇宙領域専門部隊を新編することが決定された。
 当該部隊は、まずは我が国の宇宙状況監視体制を担う部隊として新編する予定である。空自は、2022年度までに宇宙状況監視(SSA)体制を構築するため、宇宙監視システム(SSAシステム)の整備を進めていく。
(3) 新たな領域(サイバー)への対応
 空自が利用するサイバー空間の安全性を確保するため、JADGEシステムや基地インフラシステムなどの空自が依存するシステムについて、抜けのない防護体制を構築していく。
(4) 新たな領域(電磁波)への対応
 相手の優位性を減殺するための能力を獲得・強化するため、電子戦能力の高いF-35等を整備するとともに、F-15の電子戦能力を向上する。
また、我が国に対する侵攻を企図する相手方のレーダーや通信等を無力化し、将来の電子戦環境に有効に対応するため、新たにスタンド・オフ電子戦機を開発し、導入する。
(5) 新たな機能(STOVL機等)の獲得
 現在、通常の戦闘機の運用が可能な滑走路長を保有する自衛隊の飛行場の数は限定的であり、特に南西地域の島嶼部においては極めて限定的である。
STOVL(ストーブル)機を導入することによって、滑走路の短い飛行場でも離発着が可能となることから、戦闘機の運用の柔軟性が向上し、これまで対処態勢の構築が必ずしも十分でなかった地域においても有効な対処が行えることとなる。
また、「いずも」型護衛艦からのSTOVL機の運用が可能になれば、臨時に離発着できる「飛行場」が増加することとなり、運用の柔軟性は更に向上する。
(6) 新たな機能(スタンド・オフミサイル)の獲得
 我が国への侵攻を試みる艦艇に対して、自衛隊員の安全を確保しつつ、侵攻を効果的に阻止するため、相手方の脅威圏の外から対処可能なスタンド・オフ・ミサイルを導入する。
(7) 新たな機能(無人機)の獲得
 滞空型無人機(グローバルホーク)は、現有の装備品では十分に実施することが困難な我が国領海・領空から比較的離れた地域での情報収集や、事態が緊迫した際においても、高高度を滞空し、情報収集を可能とする装備品である。同機が2021年度に導入されることに併せて、滞空型無人機運用部隊を新編する予定である。
(8) 戦闘機部隊の増強
 戦闘機部隊は、機数を確保しつつ質的強化をしていく。F-4の後継機としてF-35Aを選定しており、42機の導入を継続していく。F-15非近代化機については、能力の高い戦闘機、F-35Aの増勢により代替するとともに、STOVL機を新たに導入して代替していく。F-15近代化機については、電子戦能力の向上、スタンド・オフ・ミサイル搭載等の能力向上を実施していく。
 将来戦闘機については、将来のネットワーク化した戦闘の中核となる役割を果たすことが可能な戦闘機の確保に向け、必要な研究を推進するとともに、国際協力を視野に、我が国主導の開発に早期に着手することを目指していく。
(9) 新たな地域への対応(太平洋側の広大な空域を含む我が国周辺空域における防空態勢
 平素から事態対処時に渡り、本邦から離れた地域においても運用態勢を確立するため、太平洋側の広大な空域を含む我が国周辺空域における情報収集・警戒監視活動の範囲を拡大するとともに、増強された空中給油・輸送部隊等を活用し、機動的かつ継続的に航空戦力を発揮できる態勢を強化する。
(10) 安全保障協力の強化
 新たな大綱を踏まえ、 @日米同盟を基軸とし、普遍的価値や安全保障上の利益を共有する国々との二国間・多国間協力を効果的・効率的に推進すること、A他自衛隊、他省庁、米国及び友好国が実施する各種活動と有機的に連携し、戦略的に発信すること、B航空防衛力の特質を活かし、主体的かつ積極的な活動を実施することを重視していく。











  講和を熱心に拝聴する会員

3 結言
 航空自衛隊は、新大綱・中期防に基づき、従来にはなかった新たな「領域」、「機能」、「地域」における能力の獲得に挑戦すべく進化していくとともに、従来の領域における進化を図る。
 その際、空自全体の最適化を図ることも必要であることから、必要な合理化等も推進していく。











  質疑応答の様子











  謝意を述べる外薗会長(当時)