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演題:「インド防衛駐在官勤務を終えて」
前在インド防衛駐在官
航空幕僚監部 運用支援・情報部情報課 1等空佐 上村 宗顕
【インドを如何に理解するか】
日本ではインド、インド人について、メディアなどで時に面白おかしく、センセーショナルに報じられて、多くの日本人のインド観を形成しているものと思います。それらのいくつかは私が実際に現地で経験したものもあり、インドの真の姿かもしれません。しかしそれは一側面であり、インドの全てではありません。私の赴任期間3年でも、インドという国の断片に触れたに過ぎないと思いますし、実際には、ごく普通の感覚を持ち合わせた人が大多数であり、特に職務上のカウンターパートは信頼できる人が多かったというのが私なりの印象です。
ニューデリーの日常
ゴルフ場で見られる光景
某国の武官が着任間もない私に述べたことで、印象に残っている言葉があります。それは「ある人がインドは○○だ、と言えばおそらくそれは正しい、また別の人がインドは△△だと言えば、おそらくそれも正しい。」という言葉です。
ステレオタイプ的なとらえ方でインドを理解すると、道を誤ります。インド、インド人との付き合いにおいては、先入観にとらわれることなく、その時の相手・状況に応じて、その都度丁寧に状況判断することが重要であったと考えております。
【インドの重要性】
経済成長、地政学的価値、世界一の人口、地域大国といったキーワードだけでも、インドの重要性は明らかです。現地におけるインドの重要性に係る意見の多くは、潜在性、ポテンシャル、将来性という結論に至るのが常でした。今インドと付き合っても得られるものは限られている、一方で、10年、20年後に自信と、その裏付けとなる力を蓄えたインドに関与しようとしても、その時には相手にされないだろう、といった意見が一般的であり、おそらくその見方は正しいと思います。大国としての自信をつけたインドは、よりグローバルな役割を自律的に果たしていくことになるでしょう。
そのような中で、現在の日印関係は蜜月ともいえる、両首脳の良好な関係を背景に、極めて特別なものであるとの認識も持たされました。顕著な例として、6月にシンガポールで開催されたシャングリラ・ダイアログにおける、インドのモディ首相による基調講演では、国別の言及回数では日本がASEAN域外国では最多であり、日本の提唱する自由で開かれたインド・太平洋戦略への支持を鮮明にしたものでした。
この日印関係のアドバンテージを活用しない手はない、また、いつまでも優遇されるとは思えません。その優遇は、日本への信頼の現れであると同時に、期待の裏返しであることを認識し、その期待が落胆に変わってしまう前に日印関係の深化を図らなければならないと考えます。
【インド空軍との防衛協力】
一説には世界第4位の空軍と評価されるインド空軍ですが、陸軍国ともいえるインドにおいて、これまで空軍としての能力を陸軍に提供するといった立場に甘んじていた面も否めません。
近年、インド空軍はそのような陸軍の戦略への追従から脱却し、フル・スペクトラムな能力を有し、それを積極的に活用する組織への脱皮を追及しております。MiG−21など旧式装備の更新が課題となっていることは確かですが、次世代戦闘機の開発プロジェクトや、電子戦、ネットワークの強化等、先進的な分野にも積極的に取り組んでいます。インドの重要性の高まりを背景に、各国が挙ってインドとの関係強化を志向しており、時間はかかるものの、装備面でもインドにとって好条件で更新、導入を進めていくものと思われます。
外交政策の側面から見ると、日本の「自由で開かれたインド・太平洋戦略」はインドの重要性を象徴するものであり、同戦略の成否の鍵はインドであるといっても過言ではありません。
包含する人口、経済規模から、インド・太平洋地域は今後の世界の重心となり、インドはその地域で中心的役割を果たすことが期待されています。日本と価値観を共有するインドが、インド洋地域において強い存在であることは、シーレーンに大きく依存している我が国の国益でもあります。我が国と競合する係争等もなく、日印関係はナチュラル・パートナーといえるでしょう。PACOMがインドPACOMと改称した事に見られるように、米国もインド洋地域を重視しており、インドとの協力においても、日米の協力は重要となります。
インド・太平洋戦略の鍵は、インド自らが地域の安定に寄与できる能力を将来にわたって保持させるとともに、インドの「アクト・イースト政策」に基づく、東南アジア地域へのインドの関与を高めていくことにあります。その際、インド太平洋戦略は、地理的にも内容的にも海洋に限られたものではなく、幅広い分野での協力が必要であることに留意が必要です。
インド空軍と航空自衛隊の防衛協力では、これまで留学生による人的交流をはじめ、輸送機部隊、テストパイロット、HA/DR、飛行安全の分野で交流を実施してきました。実務レベルの交流では2016年より部長級の幕僚協議であるスタッフ・トークスを開始し、今年の6月には第2回がインドにおいて実施され、米印空軍共同訓練コープ・インディアへの航空自衛隊のオブザーバー参加、航空機による相手国基地への訪問等、戦略的意義の強い協力へと着実に深化を図っております。
フルスペクトラムな空軍への脱皮を目指すインド空軍のニーズ、自由で開かれたインド・太平洋戦略に係るインド、航空自衛隊の為し得る役割、日米連携による対インド協力を踏まえると、インド空軍と航空自衛隊の協力は正しい方向に向かっており、先に実施されたスタッフ・トークスの合意事項を着実に実施していくことが、日印関係の強化、地域更にはグローバルな平和と安定に寄与するものであり、同合意内容は8月20日に実施された日印防衛相会談においても追認されたところであります。
大使館における自衛隊記念日レセプション(2018.6)
政府専用機(B747)インドでの最後の雄姿
【防衛装備】
インドは世界最大の兵器輸入国であり、世界各国の大手企業が、積極的にインド市場に参入しております。インド政府は、このような兵器の海外依存を低減させるとともに、国内の経済発展、雇用確保の観点から、国産や、外資の誘致を進めるメイク・イン・インディア政策を推進しており、防衛装備についても例外ではありません。
よって、単純に装備を輸出するというだけでは案件を成立させることは困難であり、技術移転やオフセットによる現地への資本投資など、如何にインドにとって魅力ある契約となるかを提案していく必要があります。さらに、メイク・イン・インディア政策の一環として、防衛産業分野における民間企業の育成を企図したストラテジック・パートナーシップ・モデルをすすめています。
ストラテジック・パートナーシップ・モデルとは、主要な戦闘機、ヘリコプター、潜水艦、装甲車、戦車、といった防衛装備の調達に際して、審査を通じて国内民間企業を選定し、世界の防衛産業大手企業と協力して、国産を進めようとするものです。
インドの大手企業と海外の大手防衛装備関連企業が、これまでいくつかのパートナーシップ締結に至っております。これらのパートナーシップは、装備の契約が決定してから結ばれるのが通例でしたが、ストラテジック・パートナーシップ・モデルが発表されて以降、機種選定等を有利に進めるため、インドにとってよりよい条件を提示するとの観点から、政府の調達決定に先んじて、海外企業とインド企業の合意が為される形態が増加しております。
我が国の状況は、装備移転三原則の策定と2015年12月にインドと防衛装備品・技術移転協定を締結したことで、制度的には移転可能となっております。技術協力については、協定締結以来、案件成立のため調整を進め、UGV/ロボティクス分野における防衛装備庁とインド国防研究開発機構との研究協力について合意されました。
主要国は、企業の進出とともに、大使館に防衛装備専門の部署を設置するなど、官民一体となった売り込みを積極的に展開しております。日本も枠組みとして防衛装備・技術協力に関する事務レベル協議をインドとの間で確立しており、これらの場を活用して、官民一体となり、より積極的にインド側へ魅力的な提案をしていくことが期待されます。
インド国産戦闘機 LCA(Light Combat_Aircraft) Tejas
【結言】
今後も、日印関係は深化の一途にあり、会員の皆様もインドとお付き合いする機会があるかもしれません。その際は、先入観を持つことなく、信頼に足るパートナーとして付き合っていただければ幸いです。