平成29年度第4回目の講演会(三木会)を平成30年1月18日(木)グランドヒル市ヶ谷において開催した。今回は空幕防衛課長の佐川詳二1佐と空幕会計課長(当時)の小石弘文1佐に「平成30年度航空自衛隊予算案の概要」という演題でご講演を頂いた。
講演終了後、外薗会長から本講演に対する謝辞と30年度予算編成業務に対する慰労の言葉が述べられた。
I 平成30年度空自予算の考え方
平成30年度は、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成25年12月17日閣議決定)及び「中期防衛力整備計画(平成26年度〜平成30年度)」(平成25年12月17日閣議決定)の最終年度として、統合機動防衛力の構築に向け、防衛力整備を着実に実施する。
各種事態における実効的な抑止及び対処並びにアジア太平洋地域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善といった防衛力の役割にシームレスかつ機動的に対応し得るよう、統合機能の更なる充実に努める。
特に、警戒監視能力、情報機能、輸送能力及び指揮統制・情報通信能力のほか、島嶼部に対する攻撃への対応、弾道ミサイル攻撃への対応、宇宙空間及びサイバー空間における対応、大規模災害等への対応並びに国際平和協力活動等への対応を重視する。更に技術優越の確保、防衛生産・技術基盤の維持等を踏まえ、防衛力を整備する。
また、格段に厳しさを増す財政事情を勘案し、我が国の他の諸施策との調和を図りつつ、長期契約による取組等を通じて一層の効率化・合理化を徹底する。

II 主要事業の概要
1 各種事態における実効的な抑止及び対処
【周辺海空域における安全確保】
南西地域をはじめとする周辺空域の警戒監視能力の強化のため、新早期警戒機を1機取得する。(一部は、29年度補正予算に計上)
我が国防衛における敵艦艇の侵攻阻止、上陸部隊の排除やBMDイージス艦の防護といった任務に従事する隊員の安全を可能な限り確保する観点から、相手の脅威圏外(スタンドオフ)から対処できるミサイルを導入する。
現有のE-767の警戒監視能力を向上するため、中央計算装置の換装及び電子戦支援装置の搭載改修を1機実施する。
滞空型無人機(RQ-4Bグローバルホーク)1機の機体組立てを実施するとともに、導入に向けた準備態勢の強化を行う。
【島嶼部に対する攻撃への対応】
@常続監視体制の整備
南西地域における警戒監視態勢を保持するため、奄美大島及び土佐清水に移動式警戒管制レーダーの展開基盤を整備する。
BMD機能を付加したFPS-7へ換装するため、稚内のレーダーの本機を29年度補正予算で取得するとともに、稚内、海栗島にFPS-7を整備するために必要な施設整備費等を計上する。
A航空優勢の獲得・維持
戦闘機(F-35A)を6機取得するほか、整備用器材等の関連経費を計上する。
戦闘機の能力向上改修として、F-2の空対空戦闘能力向上及びデータリンク機能を付加するJDCS(F)搭載改修を引き続き実施する。
戦闘機部隊等の体制移行については、南西地域における防衛態勢の強化をはじめ、航空優勢の確実な維持に向けた態勢を整えるため、F-4からF-35Aへの機種更新に伴い、百里基地のF-4飛行隊を整理し、三沢基地にF-35A飛行隊を新編する。
戦闘機部隊等が我が国周辺空域で各種作戦を持続的に遂行し得るよう、新空中給油・輸送機(KC-46A)を1機取得する。
救難ヘリコプター(UH-60J)の十分な捜索救難活動の範囲及び時間を確保するため、輸送機(C-130H)に対する空中給油機能の付加改修を実施する。
B迅速な展開・対処能力の向上
現有の輸送機(C-1)の減勢を踏まえ、航続距離や搭載重量等を向上し、大規模な展開に資する輸送機(C-2)を2機取得する
【弾道ミサイル攻撃への対応】
30年度概算要求に計上していた能力向上型迎撃ミサイル(PAC-3MSE)の取得については、29年度補正予算に計上した。
ロフテッド軌道による攻撃、事前兆候の察知が困難である攻撃及び複数の弾道ミサイルを同時に発射する攻撃への対処能力を向上するため、自動警戒管制システム(JADGE)の改修を実施する。(一部は、29年度補正予算に計上)
【宇宙空間における対応】
宇宙状況監視(SSA)に係る取組として、宇宙監視システムの整備に係る詳細設計等を実施するとともに、米国やJAXA等との連携強化のための技術支援を行う。
【大規模災害等への対応】
災害対処拠点となる基地等の機能維持・強化のために、耐震改修等を引き続き実施するとともに、災害対処拠点地区等を整備する。
2 アジア太平洋地域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善
【アジア太平洋地域の安定化への対応】
日豪をはじめ二国間・三国間・多国間の防衛協力・交流を推進する。
【グローバルな安全保障課題への適切な対応】
ソマリア沖、アデン湾における海賊対処として、必要に応じC-130H等による物資等の航空輸送を実施する。
3 人事教育に関する施策
【女性の活躍とワークライフバランスのための施策の推進】
女性隊員の勤務環境の整備として、施設修繕及び隊舎・庁舎の女性用区画を整備する。
職業生活と家庭生活の両立支援のための整備として、庁内託児施設の改修を実施する。
また、緊急登庁支援(児童一時預かり)のための備品等を整備する。
職場における性別に基づく固定的な役割分担意識の解消に貢献するため、意識啓発のための集合訓練を実施するとともに、女性活躍紹介パンフレットの作成等を実施する。
【衛生機能の強化】
自衛隊病院の拠点化・高機能化に向けた取り組みとして、自衛隊入間病院(仮称)建設のための本体工事を実施する。
4 効率化への取組
【長期契約を活用した装備品等及び役務の調達】
可動率の向上と適時適切な部品供給態勢の確保等を図るため、F110エンジン(F-2用)の維持部品のPBL(成果保証契約)を実施することにより、約50億円の経費節減を図る。
※PBL:可動率や安定在庫の確保といった装備品のパフォーマンスの達成に対して対価を支払う契約方式
【民生品の使用、仕様の見直し】
作戦用通信回線統制システム(TNCS)の電話端末の仕様を見直し、民生品を活用することにより、約166億円の経費節減を図る。
V 編成事業の概要
【平成30年度編成事業の方針】
各種事態における実効的な抑止及び対処等に対応するため、部隊改編等を実施する
【自衛官定数】
前年度から6名減の4万6936人となる。
【自衛官実員】
弾道ミサイル対応に係る態勢の強化等のため、204人の実員を増員する。
W 予算編成経緯
平成30年度予算編成については、昨年度とその過程に大きな違いはなく、昨年度と同様の日程で進められた。また、平成29年度補正予算については、平成28年度の補正予算が3度にわたり編成されたのに対し、1度のみの編成であり、これが平成30年度予算と同時並行的に編成された。
【概算要求まで】
昨年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2017」いわゆる「骨太の方針」が閣議決定された。また、7月には「概算要求に当たっての基本的な方針」が閣議了解され、概算要求基準が示された。その内容は、各省庁の平成29年度予算における義務的経費及び裁量的経費のうち、裁量的経費を10%低減したものを要望基礎額として、それに30%を乗じた額を上限とする優先課題推進枠を設け、これを要望額とし、義務的経費、要望基礎額及び要望額の合計額を上限とするというものであった。
防衛省は昨年度と同様、概算要求基準の上限額で概算要求を行った。
その結果、防衛関係費の概算要求については、歳出予算が対前年度1300億円増の5兆2551億円、新規後年度負担が対前年度3254億円増の2兆4552億円となった。
(SACO関係経費、米軍再編経費のうち地元負担軽減分及び新たな政府専用機導入に伴う経費を含む)
【政府予算案決定まで】
10月31日に開催された財政制度等審議会で議論された防衛関係費の主要課題は、@原価監査の徹底等による製造原価の抑制、A製造分担企業のコスト、GCIPも含めた総原価に主契約企業のGCIP率を乗じるいわゆる「ダブルGCIP」による高コスト構造の見直し、BFMS調達における単価内訳の透明化、コスト低減であった。
総じて、これら財政制度等審議会で議論された防衛関係費の主要課題がそのまま財務省との折衝上の焦点となり、航空自衛隊は、装備品の原価を精査する等の努力を示して財務省の理解を得つつ、概算要求した装備品等の数量確保に努めた。その後、概算要求していたPAC-3MSEミサイル等が前倒しで平成29年度補正予算に計上される等、平成30年度予算は、平成29年度補正予算と同時並行的に編成作業が進められ、いずれも12月22日に政府予算案として閣議決定された
こうして策定された平成30年度予算のポイントとして、財務省は、ホームページ上で次のとおり言及している。@一般歳出、社会保障関係費の伸びについて、経済・財政再生計画の目安を達成、国債発行額を6年連続で縮減。A中期防対象経費は、+0・8%を確保、防衛関係費全体としても+1・3%を確保、調達改革等により確保することとされていた財源規模(7000億円程度)を上回る調達改革を実現。
これらのことから、歳出予算の自然増を抑制する等、財政健全化に向け徹底した歳出予算の見直しが行われる中、防衛関係費については一定の伸びが認められる等、昨今の安全保障環境を踏まえ防衛関係費への予算配分が重視されたものと考える。

X 経費の概要
【平成30年度防衛関係費(案)】(表1)
以下においては、SACO関係経費、米軍再編経費のうち地元負担軽減分及び新たな政府専用機導入に伴う経費を除いた中期防対象経費について説明する。
歳出予算は、対前年度392億円増の4兆9388億円で、対前年度伸び率は+0・8%となり、中期防で認められた毎年度+0・8%の伸び率が30年度予算でも認められる結果となった。
歳出予算の内訳として、人件糧食費は、対前年度187億円増の2兆1850億円、歳出化経費は、対前年度226億円増の1兆7590億円、一般物件費は、対前年度21億円減の9949億円となった。
また、新規後年度負担については、対前年度238億円増の1兆9938億円となった

【平成30年度航空自衛隊予算(案)】(表2)
歳出予算は、対前年度85億円増の1兆1663億円で、対前年度伸び率は防衛関係費の伸び率とほぼ同率の+0・7%であった。
歳出予算の内訳として、人件糧食費は、対前年度29億円増の4018億円、歳出化経費は、対前年度24億円減の5997億円、一般物件費は、対前年度81億円増の1648億円となった。
また、新規後年度負担については、対前年度166億円減の6728億円となり、一般物件費と新規後年度負担を合わせた契約ベースでは、対前年度85億円減の8376億円となった。
なお、昨年度の武器修理費及び通信維持費に引き続き、今年度は、車両修理費、諸器材等維持費の一部についても、繰越明許費への登録が認められる見込みであり、これにより、一層の効果的な予算執行が可能となると考える。

【平成29年度航空自衛隊補正予算(案)】(表3)
自衛隊の安定的な運用態勢の確保に資するため、契約ベースで1483億円を平成29年度補正予算に計上した。その内訳として、まず、弾道ミサイル攻撃への対応のための事業を最大限早期に推進するため、PAC-3MSEミサイルの調達、固定式警戒管制レーダー(FPS-7)の換装及び自動警戒管制システム(JADGE)の能力向上等に必要な経費の一部を、平成30年度概算要求から前倒しで計上した
また、一層厳しさを増す我が国周辺の安全保障環境や頻発する自然災害に対応するため、新早期警戒機(E-2D)を1機及び航空機をはじめとする装備品等の部品費・修理費の一部をそれぞれ計上した。

【航空自衛隊予算案の総括】
総括すると、概算要求以降、要求額は装備品等の単価低減努力により減額となったものの、概算要求したものは、安全保障上の必要性から平成29年度補正予算に前倒しで計上されるか、又は平成30年度予算に計上されるかのいずれかとなり、結果として平成30年度に航空自衛隊が概算要求した全てのものが認められることとなった。
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