平成28年度第4回目の講演会(三木会)を平成29年1月19日(木)グランドヒル市ヶ谷において開催した。
今回は空幕会計課長の小石弘文1佐と空幕防衛課長の佐川詳二1佐に「平成29年度航空自衛隊予算案の概要」という演題でご講演を頂いた。


講演終了後、吉田会長から本講演に対する謝辞と29年度予算業務に対する慰労の言葉が述べられた。
大要は次のとおり。
一 平成29年度空自予算の考え方
平成29年度は、「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成25年12月17日閣議決定)及び「中期防衛力整備計画(平成26年度〜平成30年度)」(平成25年12月17日閣議決定)に基づく四年度目として、28年度に引き続き統合機動防衛力の構築に向け、防衛力整備を着実に実施する。
各種事態における実効的な抑止及び対処並びにアジア太平洋地域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善といった防衛力の役割にシームレスかつ機動的に対応し得るよう、統合機能の更なる充実に留意しつつ、特に、警戒監視能力、情報機能、輸送能力及び指揮統制・情報通信能力のほか、島嶼部に対する攻撃への対応、弾道ミサイル攻撃への対応、宇宙空間及びサイバー空間における対応、大規模災害等への対応並びに国際平和協力活動等への対応を重視するとともに、技術優越の確保、防衛生産・技術基盤の維持等を踏まえ、防衛力を整備する。
また、格段に厳しさを増す財政事情を勘案し、わが国の他の諸施策との調和を図りつつ、長期契約による取組等を通じて一層の効率化・合理化を徹底する。
二 主要事業の概要
(一)各種事態における実効的な抑止及び対処
【周辺海空域における安全確保】
現有のE-767の警戒監視能力を向上するため、中央計算装置の換装及び電子戦支援装置の搭載改修を2機実施する。
滞空型無人機RQ―4Bグローバルホーク1機の機体組立てを実施するとともに、導入に向けた準備態勢の強化を行う。
【島嶼部に対する攻撃への対応】
@常続監視体制の整備
南西地域における警戒監視態勢を保持するため、奄美大島及び土佐清水に移動式警戒管制レーダー展開基盤を整備する。
BMD機能を付加したFPS―7へ換装するため、海栗島のレーダーの本機を取得するとともに、稚内へFPS―7を整備するために必要な施設整備費等を計上する。
さらに、既に整備されている沖永良部島及び宮古島のFPS―7に、BMD機能を付加するための改修を実施する。
A航空優勢の獲得・維持
戦闘機(F―35A)を6機取得するほか、整備用器材等の関連経費を計上する。
戦闘機の能力向上改修として、F―2の空対空戦闘能力向上及びデータリンク機能を付加するJDCS(F)搭載改修を引き続き実施する。
戦闘機部隊等の体制移行については、南西地域における防衛態勢の強化を始め、航空優勢の確実な維持に向けた態勢を整えるため、三沢基地に臨時F―35A飛行隊(仮称)を新編する。
戦闘機部隊等がわが国周辺空域で各種作戦を持続的に遂行し得るよう、新空中給油・輸送機(KC―46A)を1機取得する。
質的に向上した巡航ミサイル等の経空脅威に対処して基地等の作戦基盤を防衛するため、能力を向上した基地防空用地対空誘導弾を取得する。
B迅速な展開・対処能力の向上
現有の輸送機(C―1)の減勢を踏まえ、航続距離や搭載重量等を向上し、大規模な展開に資する輸送機(C―2)を3機取得する。
C指揮統制・情報通信体制の整備
これまで各自衛隊が個別に整備してきた指揮システムに、段階的にクラウド技術を導入して一体的な整備を行うため、航空自衛隊のクラウド基盤を整備する。
Dその他
自衛隊の設置する航空保安無線施設等の機能点検を行うため、新たな飛行点検機(サイテーション680A)を2機取得する。
【弾道ミサイル攻撃への対応】
29年度概算要求に計上していた能力向上型迎撃ミサイル(PAC―3MSE)の導入等については、28年度3次補正予算に計上した。
ゲリラ・特殊部隊による攻撃へ対応するため、軽装甲機動車についても同様に、28年度3次補正予算に計上した。
【宇宙空間における対応】
宇宙状況監視(SSA)に係る取組として、宇宙監視システムの整備に係る基本設計等を実施するとともに、SSA関連施設の整備及び運用要領の確立に向けた準備態勢のさらなる強化を行う。
【サイバー空間における対応】
航空自衛隊の作戦システムに対するサイバー攻撃等を迅速に察知し、的確に対処するため、セキュリティ監視装置を整備する。
航空自衛隊のクラウド基盤のセキュリティサービスプログラムの設計・製造及び基地内ネットワークの集約・最適化を実施する。
【大規模災害等への対応】
災害対処拠点となる基地等の機能維持・強化のために、耐震改修等を引き続き実施する。
(二)アジア太平洋地域の安定化及びグローバルな安全保障環境の改善
【アジア太平洋地域の安定化への対応】
日豪をはじめ二国間・三国間・多国間の防衛協力・交流を推進する。
【グローバルな安全保障課題への適切な対応】
ソマリア沖、アデン湾における海賊対処として、必要に応じC―130H等による物資等の航空輸送を実施する。
(三)人事教育に関する施策
【女性の活躍とワークライフバランスのための施策の推進】
女性隊員の勤務環境の整備として、女性用区画を整備する。
職業生活と家庭生活の両立支援のための整備として、庁内託児施設の新設・改修に向けて、調査設計を実施する。また、緊急登庁支援(児童一時預かり)のため、収納ボックス、ホワイトボードシート等の備品等を整備する。
職場における性別に基づく固定的な役割分担意識を解消するとともに、育児・介護等で時間制約のある職員を含む全ての職員が十分に能力を発揮できる職場環境を醸成するための取組として、集合訓練を実施するとともに、女性活躍紹介パンフレットを作成・配布する。
三 編成事業の概要
【自衛官定数】
前年度から2名増の4万6942人となる。
【編成・機構関連事業】
南西地域における防空態勢の充実のため、南西航空混成団を廃止し、南西航空方面隊(仮称)を新編する。
【自衛官実員】
弾道ミサイル対応に係る態勢、南西地域における警戒監視態勢の充実・強化等のため、118人の実員を増員する。
四 予算編成経緯
平成29年度当初予算の編成は、熊本地震への対応をはじめ三度の補正予算の編成と並行して進められた。具体的には、29年度予算の概算要求に先立ち、28年度(1次)補正予算が5月13日に閣議決定され(5月17日予算成立)、その後、28年度(2次)補正予算が8月24日に閣議決定された(10月11日予算成立)。さらには、平成28年度(3次)補正予算が平成29年度当初予算と同日の12月22日に閣議決定された。このように平成29年度当初予算の編成は、例年の日程観で進められつつも、常に補正予算の編成と並行して進められるといった印象の強いものとなった。
【概算要求】
平成29年度予算編成については、昨年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2016」いわゆる「骨太の方針」が閣議決定されるとともに、8月には「概算要求に当たっての基本的な方針」いわゆるシーリングが閣議了解され、防衛省は、前年度同様、当該方針で示された金額(各省庁の28年度予算における義務的経費・裁量的経費のうち、裁量的経費を10%低減したものを要望基礎額として、これに30%を乗じた額を上限とする優先課題推進枠を設定し、義務的経費、要望基礎額及び要望額の合計額)を上限として、概算要求を行った。
その結果、防衛関係費の概算要求については、歳出予算が対前年度1、143億円増の5兆1、685億円(SACO関係経費、米軍再編経費のうち地元負担軽減分及び新たな政府専用機導入に伴う経費を含む。以下同じ)、新規後年度負担が対前年度2、177億円増の2兆5、052億円となった。
また、航空自衛隊の概算要求については、歳出予算が対前年度390億円増の1兆1、726億円、新規後年度負担が対前年度1、716億円増の8、452億円となった。一般物件費と新規後年度負担を合わせた物件費(契約ベース)は1兆120億円となり、概算要求額としては過去最高額であった平成27年度(9、114億円)を超え、最高額を更新するものとなった。
【平成29年度予算政府案決定まで】
平成29年度概算要求に関して、財務省は、調達改革を重要課題と位置付け、防衛装備品の価格が上昇傾向にある中、中期防で定める数量を達成するためには、単価の低減が不可欠と主張した。これに対し防衛省は、装備品の原価を精査する等の努力を示して、財務省の理解を得つつ、概算要求の数量確保に努めた。また、航空自衛隊としては、概算要求で抑制せざるを得なかった修理費について、その重要性や予算不足の影響を粘り強く説明し、所要額の確保に努めた。
こうした中、北朝鮮による弾道ミサイル発射事案等の安全保障環境の変化へ迅速に対応すべく、概算要求されていたPAC―3MSEの導入事業等が前倒しで平成28年度(3次)補正予算に計上されることとなった。このように同時並行的に編成作業が進められた平成29年度当初予算及び平成28年度(3次)補正予算は、いずれも12月22日に政府予算案として閣議決定された。
平成29年度予算のポイントとして、財務省は、ホームページにおいて、「一般歳出の伸びについて、2年連続で『経済・財政再生計画』の『目安』を達成」し、かつ「国債発行額を引き続き縮減」したと明記し、歳出予算の自然増を抑制する等、歳出予算全体を厳しく査定した旨主張している。 一方、防衛関係費については、「南西方面等の海空域の安全確保、島嶼部に対する攻撃への対応等に重点化」し、「中期防対象経費について+0・8%を確保」するとともに、「中期防に示す『調達効率化7、000億円』に向け、装備品単価低減等により、約2、000億円の縮減を実現」したと明記し、財政状況を踏まえ、調達効率化を継続しつつ、厳しい安全保障環境に配慮し、必要な予算を確保した旨主張している。これらのことから、平成29年度予算については、財政健全化に向け、徹底した歳出予算の見直しが行われる中、 昨今の安全保障環境に鑑み、防衛関係費に重点的に配分されたものと思料する。
五 経費の概要
【平成29年度防衛関係費(案)】(表一)
以下においては、SACO関係経費、米軍再編経費のうち地元負担軽減分及び新たな政府専用機
導入に伴う経費を除いた中期防対象経費について説明する。
歳出予算は、対前年度389億円増の4兆8、996億円で、対前年度伸び率は+0・8%となり、中期防で認められた毎年度+0・8%の伸び率が年度予算でも認められる結果となった。ただし、中期防で認められた伸び率は、中期防策定時の為替レート(1ドル=82円)を基に算定されたものであり、当時に比べ円安な状況にあっては、輸入装備品等の価格が上昇するため、中期防で認められた装備品を取得するのに十分な伸び率とは言い難い。
歳出予算の内訳としては、人件糧食費は人事院勧告の反映により、対前年度190億円増の2兆1、662億円、歳出化経費は対前年度177億円増の1兆7、364億円、一般物件費は対前年度22億円増の9、970億円となった。
新規後年度負担については、将来における予算の硬直化を招きかねないとして総額が抑制されたことから、対前年度1、100億円減の1兆9、700億円となった。
【平成29年度空自予算(案)】(表二)
歳出予算については、対前年度382億円増の1兆1、578億円となった。その内訳として、人件糧食費は人事院勧告の反映に伴い、対前年度23億円増の3、989億円、歳出化経費は対前年度391億円増の6、022億円、一般物件費は対前年度33億円の減で1、567億円となった。なお、一般物件費については、前年度から減額となっているものの、それ以上に単価減により油購入費等が減額となっており、その減額分を他に充当することにより、所要額は確保できている。
新規後年度負担については、対前年度180億円増の6、894億円となっている。また、一般物件費と新規後年度負担を合わせた物件費(契約ベース)は、8、461億円となり、過去最高額であった平成27年度(8、588億円)に次ぐものとなった。
なお、新たに武器修理費及び通信維持費の繰越明許費への登録が認められたことは、特筆すべき事項であり、今後のより一層の効果的な予算執行に資するものと考える。
【平成28年度空自補正予算】(表三)
平成28年度補正予算は、1次から3次までの3回編成され、それぞれの各項目が補正予算として査定され、合わせて618億円となった。その内訳としては、1次補正においては、「熊本地震復旧等予備費」として、航空機維持部品の取得や災害派遣用航空燃料等で4・2億円が査定されている。次いで、2次補正においては、「国民生活の安全・安心の確保」の一環として、警戒態勢の強化に必要な航空機維持部品等が新規で認められたほか、既契約分の装備品の納入促進に必要な経費が査定され103億円となった。さらに、3次補正においては、「自衛隊の安定的な運用態勢の確保」として、前述のとおり、PAC―3MSEの導入が前倒しで認められたほか、航空機維持部品やF―15用レーダー整備用構成品の取得、為替差損を補填するための外貨関連経費等、511億円が査定された。
平成29年度空自予算(案)を総括すると、原価の精査を進める等、単価低減努力により、概算要求した装備品の取得に必要な予算を確保するとともに、修理費等の必要性について粘り強く説明することで、航空機の安定運用にとって必要な維持経費を確保する等、平成28年度補正予算と合わせ、統合機動防衛力の構築に必要な経費を確保することができたと考える。
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