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死生観ノート


                           26.03.30
                          

 「あなたの“死にがい”は何ですか?−死生観ノート」(3)


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3 日本人と言霊

 古来より我が国では、「言霊(ことだま)」という霊的な力が信じられてきた。これは、言葉には、それに宿る不思議な霊力があり、発した言葉どおりの結果が現れるというものである。声に出した言葉が現実の事象に対して何らかの影響を与え、良い言葉を発すると良い事が起こり、不吉な言葉を発すると凶事が起こるとされた。

 起こってほしくないことは、言葉に出すことはもちろん考えることも避ける。そうしていれば現実に起こらないという考えで、裏返しに言えば、たとえば「平和、平和」と繰り返し叫ぶことで平和が実現すると思い込む風潮のことである。極端に言うと「念仏平和主義」となるのであろうか。安全保障を考える人にとっては厄介な心情である。

 欧米の安全保障や危機管理の専門家の間では “Never say never.”「絶対ないとは言うな」や“ Think unthinkable.” 「想定外のことも考えろ」が合言葉なのだそうだ。「最悪の事態」を平時からあえて想定して備えようとの意味だ。最悪な事態を想定して危機管理を行う事を、「縁起でもない事を言うな」という言葉で済ませることはできないと思う。

    

  東日本大震災時、住民支援を行う隊員 (第4航空団広報室)

 「死」という言葉も同様で、「死が恐ろしい、忌まわしい、怖い」と思うならば、「死」について考えないほうが良いのである。我々も、自分や、家族、友人などの死または、その宣告がなされなければなかなかこの言葉に進んで接しようとはしない。しかし、時に、人々は、「死」と隣り合わせの人生を送らなければならないことがある。たとえば、戦争における兵士であり、東日本大震災災害派遣時の自衛隊員たちである。

 死生観を考えるとき、どうしても空論になりがちなのは、それについて考えること自体死を呼び招くことになりかねないという「言霊」信仰が影響しているのではないだろうか。しかし、この信仰に拘泥すると安全保障の啓蒙者である諸兄が念仏平和主義者になりかねない。

 次回は、「死」とは何か、人間とその避けることのできない死の関係を考察してみたい。


                       2014.3.30

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《筆者紹介》
 大場(おおば) 一石(かずいし)
《略  歴》
 文学博士 元空将補
 1952年(昭和27年)東京都出身、都立上野高校から防衛大学校第19期。米空軍大学指揮幕僚課程卒。
 平成7年、空幕渉外班長時、膠原病発病、第一線から退き、研究職へ。大正大学大学院進学。「太平洋戦争における兵士の死生観についての研究」で文学博士号取得。
 平成26年2月、災害派遣時の隊員たちの心情をインタビューした『証言−自衛隊員たちの東日本大震災』(並木書房)出版。


               

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