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ドクター大橋の「元気で長生き」講座(4)


                            H28.07.18

 ドクター大橋の「元気で長生き」講座(4)

    社会医療法人ジャパン・メディカル・アライアンス 医師
                  つばさ会会員 大橋 幸一郎

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 今回は各論の2回目、健康寿命や介護予防を阻害する3大因子の1つ、内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)の話をしたいと思います。

 メタボリックシンドロームという言葉は、巷では簡単に「メタボ」という略語でよく耳にする言葉ですが、なぜメタボは健康寿命を縮めることに繋がるのでしょうか?その一番の理由は、何といってもメタボの状態は動脈硬化の進行を早め、動脈硬化性疾患といわれている心筋梗塞や脳梗塞及び脳内出血など重篤な疾患を引き起こすからです。我々日本人の死因調査によりますと、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血に代表されるような動脈硬化性疾患で亡くなる方が、全死亡率の約1/3を占めております。またこれらの疾患は救命できたとしても、心不全や意識障害、麻痺などの重篤な後遺症を残し、結果として寝たきりとなって、場合によっては数年以上もベッド上での無為な生活を強いる恐ろしい病気なのです。この意味で動脈硬化性疾患については先進国で早くから問題視され、動脈硬化の予防研究が長い間にわたって続けられてきました。

 当初、最大のリスクと言われてきたのが血液中のコレステロール値が高くなる、いわゆる高コレステロール血症でした。しかしよく調べてみると高コレステロール血症の患者さんだけが動脈硬化性疾患を起こすわけでないことがわかってきます。コレステロール以外のリスク、例えば糖尿病や高血圧、そして高トリグリセライド(中性脂肪)血症、低HDL(善玉)コレステロール血症など、それぞれが1人の患者さんに重なっている状態が大きなリスクになるという訳です。最近では「肥満」に注目し、太っていても病気にならない場合もあり、少し太っただけでも高脂血症や高血圧、糖尿病などの生活習慣病になることから、肥満は肥満でも、脂肪が内臓に蓄積した状態(内臓肥満型)がキープレイヤーとして働き、生活習慣病が1人の人に重なって、動脈硬化性疾患の大きな原因になっていることが解明されてきました。最終的に約10年前(平成17年4月)になりますが、国際糖尿病連合の呼びかけで統一見解を出そうとの世界的な流れがあり、内臓脂肪(ウエスト周囲径)をキープレイヤーにして、それにいくつかの生活習慣病が2つ以上重なった病態を「メタボリックシンドローム」とすることに統一されたのです。

 ここで、メタボの診断基準を示します。



















 読者の皆様には最近の健康診断の結果を上図の基準に照らし合わせて頂き、メタボの基準に該当するか否かをご判断下さい。結果は如何だったでしょうか?中には、今までは自分はメタボではないと考えていたが、見事この診断基準に適合し、実はメタボであることを初めて認識したという方もおられるかも知れません。是非、結果にがっかりせず、メタボとわかったことは「元気で長生き」のためにラッキーだったと前向きに考え、一つでも改善できるように努力してみましょう。

 まず、メタボと判定されたからといってすぐさま病院を受診して薬を飲まなければならないという訳ではありません。生活習慣を改善することによって減量し、腹囲、すなわち内臓脂肪を減らすことから始めて下さい。これまでの医療は、まずは薬の服用があり、ついでに食事療法をという指導でありましたが、最近は「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後に薬」という考え方が主流になっています。中には既に高血圧症や高脂血症との診断を受け、服薬中の方もおられるかと思います。服薬中の方では、腹囲を減らすことが出来れば薬の量を減らせるかもしれませんし、また薬の効果が上がる可能性があります。

 参考までに、日本肥満症予防協会が奨励する肥満予防の食事療法、運動療法について紹介致します。
 食生活を見直す
1.夜間に食べ過ぎない:脂肪細胞では体内時計の調節機能を持ち、脂肪を蓄積する働きがある蛋白質を生成します。夜間は翌日の活動に備えてエネルギー貯蔵を行うために夜はその生成量が増加します。
2.1日3食、規則正しく食べる:朝食を抜く、夜中に食事をするといった不規則な食事の習慣は生体リズムを乱し、内臓脂肪蓄積の原因になります。
3.ゆっくりよく噛んで、食事に時間をかける:食べ始めてから脳の満腹中枢が働くまでに約20分かかるため、よく噛んでゆっくり食べることが過食の防止につながります。調理の際もかたい食材を選んだり、大きめに切ったりすることで咀嚼回数を増やすことが出来ます。
4.栄養の偏りなく、バランスよく食べる:同じものばかり食べるなど、栄養に偏りのある食生活は太りやすい体を作ります。糖質、蛋白質、脂質をバランスよく摂取することに加え、ビタミン、ミネラル、食物繊維も積極的に摂ることが大切です。ビタミンやミネラルは体内の代謝を促し、食物繊維は糖質やコレステロールの吸収を穏やかにします。
5.アルコールは適量に:アルコール1gは約7kcal。ビール350mlで150kcal、日本酒1合で200kcal、ワイングラス1杯で100kcalと意外と高カロリーです。加えて中性脂肪を増やす作用もあります。また脂質や蛋白質の多いつまみを取りがちなため、内臓脂肪を増やす大きな原因となっています。

 運動習慣・日常活動を見直す
 1日のエネルギー消費量のうち、50~70%を占めるのが安静時基礎代謝量です。身体活動によるエネルギー消費量は約20~40%、そのうちの半分は、スポーツとかではない生活活動によるエネルギー消費です。歩行、家事、子供と遊ぶなどの日常活動は運動強度としては軽めのウエイトトレーニングやゴルフ、バトミントンといったスポーツに相当します。普段からエレベーターを使わない、ちょっとした距離は乗り物に乗らず歩くなど特別に運動の時間を設けずとも日常性動作の積み重ねでエネルギー消費を増やすことが出来ますし、肥満改善効果も望めます。

 喫煙も動脈硬化を進める4大因子の1つです(他の因子は、高血圧症、高脂血症、糖尿病です)。禁煙に関して、昔、「禁煙ほど簡単なものはない。何度でも禁煙できる。」(何度でも禁煙の決意を翻して喫煙し、その後また禁煙するとの意味だそうです。)と言った人がいましたが、長くタバコを喫っている人にとって禁煙を続けることは容易でないかも知れません。どうしてもやめられない人は、一度禁煙外来を訪ねてみるのも1つの方法でしょう。

 現在勤務中の病院では内科外来を担当し、多くのメタボの患者さんと話をしております。最後に、これらの人達によく話している内容を紹介して今回の講座(4)を終えたいと思います。

 「動脈硬化は初期には全く症状として現れないために、知らないうちに進んでいきます。この点が怖いところで、動脈の超音波や脈波検査、MRAやCTによる血管撮影等の検査をしなければその進行度を判定できません。症状として、胸痛や息切れ、麻痺や痺れ、言語障害を自覚した段階では動脈硬化は相当に進んでおり手遅れの状態と言えます。重篤な後遺症を残し引いては寝たきりの状態になった時に、あの時ドクターの話をしっかりと聞いておけばよかったと悔やんでも後の祭りです。動脈硬化は「おぎゃっ」と生まれた時から少しずつ進んでいくと言われており、その意味では老化現象の1つです。今の医学では若返りの薬はないため、従って動脈硬化を元に戻す方法はありません。メタボの状態で動脈硬化が早く進むということは早く年を取るということです。誰しも早く年を取りたいと考える人はいないと思います。将来、後悔しないように、またいつまでも若々しくいるためにも、今からでもメタボを改善し脱却できるよう、努力していきましょう。」

 次回は「元気で長生き講座」(5)で各論の3回目、健康寿命や介護予防を阻害する3大因子の1つ、認知症の話です。



備考:
高脂血症:高コレステロール血症、高LDL(悪玉)コレステロール血症、高トリグリセライド(中性脂肪)血症の総称です。
脂質異常症:高脂血症に低HDL(善玉)コレステロール血症を含めた名称です。



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大橋 幸一郎 先生